国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)「バキ」シリーズにおける忍術使い

2018年08月08日

 

国際忍者研究センター事務補佐員の酒井裕太です。忍者や忍術を探求する皆さんの中には忍者が登場したり、題材とされている漫画やアニメなどを読まれる方も多いと思います。かくいう私もそのいくつかは読んでおりますし、どちらかというと古い漫画が好きな私は、漫画の中の忍者といえば? と問われれば、まず出てくるのはキン肉マンの「ザ・ニンジャ」でございます。

さて、今回ここで紹介させていただきたいのは皆様の想像されるような超人的な「忍者」ではなく、昭和・平成の社会において武道として忍術を用いるキャラクターです。漫画「バキ」シリーズはいわゆる現代の格闘技漫画です(最新シリーズでは宮本武蔵のクローンなども現れますが)。空手、合気道、柔術、プロレス、果てはドーピング至上主義のアスリートなど、あらゆる格闘家が登場しては熾烈な闘いを繰り広げます。また、その多くが実在している(した)人物をモチーフにしていることは、読まれたことがある方はご存知かと思います。そんなキャラクターの中で忍術に関連したキャラクターとして、

 

無隠流忍術なる忍術を学んだ日系人、ジュン・ゲバル

世界各国に軍人や警察官の門弟を持つ、マスター国松

源王会なる組織の会長にして催眠術を駆使して闘う通称、「GM」

 

などが現れます。これらのキャラクターは黒装束に身を包んだり、巻物をくわえたり、そのような描かれ方はせず、特に国松に至っては格闘術で敵を倒すというより、勝てばなんでもいいといった考えの持ち主で、政治的権力も使えば部下を使ってスナイパーライフルで敵を狙うなど、もはや格闘技漫画の域を超えた闘いを繰り広げます。ある意味で「忍者的」ではあるとは思います。また、その容姿は「蒙古の虎」と呼ばれた、かつて実在した某武道家によく似せて描かれています。興味深いのはGMなる人物が使う催眠術ですが、彼のセリフに「中国で散楽(※)、日本に渡り忍術」というものがあります。散楽が日本に渡って忍術? と思う方もおられるかもしれませんが、大正、昭和初期は幻術、奇術、妖術、魔術といった物の中に忍術が並んでおり、多くの出版物もあれば、奇術の興行のチラシなどにも忍術という言葉が見られます。「忍術の歴史」というものの中でも独特な時代でしょう。(もちろん、今後さらに忍者研究が進めば、現在の忍者像は未来の人にどんな風に見られるか分かりませんが)

これらをふまえると、よくこんな風変わりなバックグラウンドを持った人物を「格闘技漫画」で活き活きと描けたものだなあと、作者の技量に感嘆するばかりです。(酒井記)

 

※ここでいう散楽とは、中国で行われた見世物、曲芸を指すと思われる