国際忍者研究センター

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(学生通信)「国語科試験問題における出典と時代の流れに関する一考察」(院生N)

2019年02月08日

今年(2019年)のセンター試験国語科の古文において『玉水物語』が出題されました。これは室町時代に成立したもので、御伽草子に分類されます。そして何より、姫に恋をした男の狐が女性に化けて姫にお仕えすることになるという内容からネット上で話題になりました(あとリスニング英語も話題になりましたね笑)。

『日本古典文学大辞典』や京都大学貴重資料デジタルアーカイブに梗概や詳しい解説が掲載されてあるので(もしかすると問題作成者は京都大学の関係者ではないでしょうか?)内容等はそちらに譲るとして、ここではなぜこの作品が問題の出典元となったのかを僕なりに考えてみます。ところで、この作品が百合かそれとも一般的な男女の恋愛かを論じることを期待されていた方もいるかと思いますが(『日本古典文学大辞典』では「異類物」「怪婚譚」と解説されていましたが)、おそらくこの議論は平行線をたどるのみだと思うので……(苦笑)。

試験問題において大事なのは公平性です。誰もが知っている作品を出すと、みんながその内容について知りすぎてしまっているので試験になりません。そのため、あまり知られていない作品が出典元となる事が多いです。この『玉水物語』も、名前を聞いた時は「何それ、そんな作品あんの?」と思ってしまいました。今回の試験で初めて本作を知ったぐらいです。ある時、教員が「古文の問題なんてこんな作品よく見つけてきたなと思う時がある」と言っていましたが、まさにそれと同じ気分を味わいました。

そしてもう一つ。これは自分の考えですが、その作品の内容も出題するうえで大事ではないでしょうか。難しすぎずやさしすぎずというのもそうですが、その内容が公序良俗に適するものを出題するようにするというのもあると思います。これは古文だけではなく現代文にも当てはまる事でしょう。あまりにも内容がきわどかったり反社会的だったりするものを出典するわけありませんよね。

そしてこの『玉水物語』の内容を見て思ったのです。まだ性差に関する議論が今ほど行われておらず、性差に対して寛容でない時代だと、こういった内容の作品は出題しにくかったのではないか、と。そして、性差に関する議論がなされている今だからこそ、出題が出来たのではないか、と。出題者がどのような意図で問題を作成したかは分かりません。上記と同じことを踏まえたのか、それとも公平性の問題からメジャーでない作品を取り上げたのか、はたまたもう出典ネタが尽きてきたのか……。出題の意図に関する僕の見解は深読みしすぎかもしれませんが、ふと考えてしまいました。

しかし2016年のセンター試験現代文では「やおい」という言葉が登場して話題をさらいました。ちなみに出典作品は土井隆義『キャラ化する/される子どもたち』(岩波書店、2009年。なお筆者未入手)です。そう考えると、問題を出題する際には、あるていど世相を反映させる方向で進めていくのではないかと考えてしまいます。そのうち稚児物語が出題される時が来るのでは!?と一人色めき立っているこの頃です(笑)。

ところで、このところ僕の書く記事が全然忍者とは関係ない話題になってしまっていますね……次こそは忍者について書きたいと思います!(院生N記)

 

参考資料

岩波書店『日本古典文学大辞典』第四巻 1984年

京都大学貴重資料デジタルアーカイブ「挿絵とあらすじで楽しむお伽草子 第一話 玉水物語」https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00013653/explanation/otogi_01 (最終確認日2019年1月23日)