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(エッセイ)忍者が距離を測るとき
2018年08月03日
三重大学国際忍者研究センターの高尾善希です。今回は忍者と計算の話をしたいと思います。
忍者が距離を測るときには、どのような方法をつかったのでしょうか。いまなら、精巧な地図や、GPSなどがありますから、簡単にわかります。しかし、昔は大変です。とくに、忍者のように、恐ろしい敵に近づけない場合、敵との距離を測るのは、かなりの困難を伴います。
忍者の史料集のひとつとして、『渡辺俊経家文書―尾張藩甲賀者関係史料―』(滋賀県甲賀市)があります。そこに「自得流火術目録」という「火術」(火をつけて飛ばす武具の術)に関する史料があります。その中に、目標物に近づかずに距離を測る方法が書かれています。
図をご覧ください。まず、下に目標物と自分がいます。この間を測りたいということです(X)。
目標物の方向に仮杭を打ち、糸を張ります。自分のところにも杭を打ち、そこから直角に28間、糸を廻します。28間伸ばしたところにも杭を打ちます。そして、4尺正方形の板を用意します。最後に打った杭のところへ、この板をあてます。すると、図における、斜線部分の三角形と大きな三角形が相似関係になることがわかると思います(角度a度+角度b度=角度90度)。斜線部分の三角形のヘン2つの長さが4尺と2寸の場合は、0.02:0.4=28:X(単位:間)という関係が成り立ちます。これを計算すると、X=560(単位:間)ということになります。つまり、自分と目標物の間は560間とわかります。
測るとき、大きな三角形の右のヘンの長さを、いつも28間にしておけば、あらかじめ4尺正方形の板に目盛りをつけておくと、計算せずともすぐにXの値が出てくるでしょう。
忍者というと「印を結んでドロン」というマジカルな印象がありますけれども、忍者学では、そのようなことではなく、忍者を実証的に考えてみようと思っています。このようにして、忍者は合理的な方法で距離を計測していた可能性があります。
戦国時代のドラマで、杭や糸や正方形の板をもった足軽(忍者)が、右往左往している様子が出てくれば、リアルな感じが増すと思うのですが、如何でしょうか。(高尾記)