国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

ブログ

 

(エッセイ)仙境異聞の忍術法 (吉丸雄哉)

2019年01月29日

平田篤胤が天狗にさらわれた少年との応答を記した『仙境異聞』という本がある。今でも岩波文庫で簡単に手に入る。訳もいくつかあるようだが、これに今井秀和訳・解説『天狗にさらわれた少年 抄訳仙境異聞』(角川ソフィア文庫、2018・12)が加わった。副題のとおり抄訳で、完訳が読みたい人は山本博訳の八幡書店版を手に入れたほうがいいだろうが、冗長な話を省いて面白いところだけ読みたい場合は抄訳が適当である。日頃は私の興味外の内容だが、たまたまゼミ生がこの本の研究をしていたので、この半年ほど関心あった。

このブログで紹介するからには、忍者・忍術に関係している。角川ソフィア文庫の158頁には「忍術法」という一節がある。椿の木を彫って作った卑猥な赤裸の女人像を祀ることで、忍術およびさまざまな邪術が行えることを書いている。1頁ほどの分量なので全文を紹介するのも簡単だが、ここはせっかく手に入れやすいテキストが刊行されたので、本を購入して読んで欲しい。

読んで驚くのは、『万川集海』や『正忍記』などの忍術書に書いてある忍術と全然違うことで、妖術といって差し支えないことである。2018年12月にソウルの明知大学校で行われた絵入本学会で忍者の話をした。そのとき、「お芝居の忍術使いは妖術使いの下位分類」と私が喋ったのに対し、複数の近世演劇の研究者から違和感あると言われた。それからこの件をいろいろと考えているが、『仙境異聞』「忍術法」も手がかりのひとつになりそうだ。