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(エッセイ)忍者の聖地伊賀 (吉丸雄哉)
2020年06月12日
最近、伊賀の観光について書かれた英語論文の下書きを見せていただいた。著者はドイツ人だが日本語が堪能で日本の大学に職を得ていて日本をよく知っている方なので、私から訂正を指摘する箇所はほとんどなかったのだが、観光標語「忍者の聖地 伊賀」をどう訳せばいいのか、それにはお互い頭を悩ませた。
伊賀を「忍者の聖地」と言い出したのは、いつからかはっきりしないが三重大学が忍者研究を始めた2012年ぐらいに会った伊賀上野観光協会の人たちはすでに口にしていた気がする。今は山田雄司先生が伊賀ポータル(元は伊賀上野ケーブルテレビチャンネルガイド誌)に「忍者の聖地 伊賀」というコラムを紹介しており、2020年6月9日で第37回まで連載が進んでいる。
「忍者の聖地」でなくて「忍者発祥の地」とか「忍者の故郷(ふるさと)」では、忍者の発祥は伊賀とは断定できないことや伊賀しか忍者がいないように思われ、実際にそういう批判を見たり聞いたりしたことがあるので、「忍者の聖地」になったのだろうが「忍者の聖地」という言い方にケチをつけている人を見たことがない。
考えてみれば「忍者の聖地」とは変な言い方である。辞書は「聖地」を「宗教的伝承と結びついて聖化されている土地。神聖視された自然の場所、人為的工作を施して聖化された区域、神殿や寺院などがおかれた聖なる場所、神、聖者、王、英雄にゆかりのある聖域などがある。自然的聖地としては富士山、インドのガンジス川、シナイ半島のホレブ山(シナイ山)など、人為的聖地としてはエルサレム、メッカ、バチカン、バラナシ(ベナレス)などが著名。」(日本国語大辞典第二版)とする。しかし、忍者は宗教ではないので伊賀を”Holy land”とは言いがたい。
「聖地」という言葉に私は朝の伊勢神宮のような静謐さを感じるのだが、日本人の60歳ぐらいの方から人がわっと集まるのを「聖地」と感じると言われたことがある。ちょっと前で「原宿は若者のメッカ」とか言っていたときの「メッカ」と同じもので、イスラム教徒が巡礼するように信者が集まってくるイメージだそうである。
この「メッカ」という言い方は英語圏の観光用語”mecca”から来た模様で、”mecca”といえば固有名詞としのメッカはもちろん、「訪れたい憧れの地」として通用するとかのドイツ人から教えてもらった。だから”the so-called mecca”でいいのだが、やはりこれも宗教との兼ね合いで最近は気に掛かる表現らしい。気に掛かるものの”Iga, the so-called mecca of ninja enthusiasts”で投稿して編集の判断を待つことにした。
話を少し前に戻すと「忍者の聖地 伊賀」とは「伊賀は忍者好きな人だったら一度は訪れたい憧れの観光地」と主張しているだけで、「聖地」は別に宗教でもいくつかあるし、他の忍者観光地と差し合いもないから、何の問題もないといえる。
伊賀には伊賀流忍者博物館があって忍者屋敷や忍者ショーなどに観光客は満足するだろうが、東京・京都などの大都市はもちろん地方都市にも忍者観光施設が増えてきた現在、エンタテインメントの面では厳しい競争にさらされている。
国際忍者研究センターが2017年7月に設立されてから、ありがたいことに海外からセンターにわざわざ訪問してくれる方が毎年2、3人はいる。海外の忍者研究者は真面目な人が多くて、我々が思う以上に忍者についてよく勉強している。そのうえでわざわざ伊賀まで訪問してくれる熱意には驚くばかりで、「伊賀」が「忍者の聖地」であることに国際忍者研究センターが貢献できるよう頑張らねばと思うのである。(吉丸記)