国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(学生通信)忍者研究の発展がフィクション作品に影響を与えられるか?(院生 嵩丸)

2020年07月20日

 突然ですが2018年に設立された「国際忍者学会」をご存知でしょうか?これまでは研究界ではほぼ相手にされなかった忍者研究ですが、なんと忍者研究をテーマとした学会ができているのです。コロナ禍の影響で毎年九月の大会は延期となってしまいましたが、また発表があると思いますので、国際忍者学会のウェブサイトや国際忍者研究センターの彙報をチェックしてみてくださいね。

 大会は延期となりましたが、8月には国際忍者学会の学会誌「忍者研究」が刊行されます。今回もおそらくたくさんの忍者研究論文が掲載されることでしょうから、どのような忍者の新事実がわかるのか、大変楽しみですね!国際忍者学会の会員になると配布されますので、今のうちに会員になっておくことをお勧めします!

 ちなみに僕は第2号から「〇〇年の忍者界動向」というコーナーを担当させていただいており、現在第3号分の校正中です。仕事の関係で全国の忍者関連地域や団体、研究界やフィクション作品の動向をチェックする必要があり、そこから俯瞰して忍者界の現状把握と今後の展望などを考えたりすることが好きなので、この原稿は毎年楽しく書かせていただいています。経年を追ってみていくと、忍者研究はここ5~6年でかなりの躍進ぶりなのですが、次の忍者界の発展のためにここはもう少しだなと思うことがあります。

 それは最近の忍者フィクション作品には、最新の忍者研究の成果がほとんど反映されていないなぁ…ということです。それこそ三重大学の諸先生方や磯田道史先生の功績で、だいぶ忍者本来の姿について、書籍やメディアを通じても多く発信されているとは感じているものの、依然としてステレオタイプな忍者像がまだまだ根強く、魔法のような忍術を使い、アサシンのように人を闇に葬り、ファイターのように戦いまくる忍者像ばかりが出てきます。今年7月からは何作か忍者題材のアニメも始まるのですが、大体上記3パターンのどれかに当てはまるのです。たま~にスパイ的なものや「それ忍者の必要ある?」という設定のものがちょびっとあるくらいです。

 最近Twitterなどでも歴史小説家と歴史家の舌戦が盛んではありますが、個人的には「フィクション作品は面白ければよい!」という派ではあるので、面白いのであればそれはそれでよいのです。ただ、たくさんの忍者作品を見てきたからこそ、上記3タイプのステレオタイプな忍者像に正直なところ少し飽きてきてしまいました。またそれか!という描写もしばしば見られます。これが歳を取って感性が乏しくなるというやつなのでしょう…。記憶を消してまた最初から忍者に触れたいです(笑)

 その意味で僕がひとつ希望を持っているのが、忍者研究の発展により新たとなった事実がいつかフィクション作品でうまく昇華されないかなということです。

 忍者研究をはじめてから、忍者が持つ様々な顔と新たな事実を目の当たりにすることが多く、フィクション作品では描かれない、こうもっと深い忍者の精神性だったり技術だったり世間の中の役割だったりが、どうにもこうにも面白いなあと感じるようになりました。これを何らかの創作作品にできるとかなり面白い新たな忍者像を作ることができるのでは?と妄想が止まりません。最近の例でいうと、和田竜さんの「忍びの国」は伊乱記などを忠実に読み込んでおり、さらにそれを興奮する小説へと昇華させた一番いい例だと思うのですが、なんとなく歴史事実とフィクションの相乗効果が最大になっているのは、そこがピークになっている気がしています。

 じゃあどうすればよいのかというと、一般の若い人に向けて、更なる忍者研究成果の発信というのをもっと行わなければならないのではないだろうかと考えています。少しでも忍者に興味ある作り手の方々は、おそらくステレオタイプな忍者に魅せられているので、そこまで一次史料とか研究成果にあたろうとすることはほぼないのではないでしょうか。半年くらい前に5ちゃんねるで「伊賀と甲賀ってこんなに近いの?」のようなスレッドにたくさん「知らなかった…」などのスレがついていて、忍者の世界にどっぷりつかっていると当たり前だと思っていたことが、全く世の中には伝わっていないんだな…と思うことがあります。

 でも本物をそのまま伝えてもなかなか人の目は引けません。かといって嘘ばっかりはびこっても大事な忍者の文化が残らなくなる。プラットフォームによってもいる人の属性は違いますし、伝えるのは大変難しい事ですよね。忍者は特にマイナーで、かれこれ7年ほど発信活動もずっと続けていますが、なかなか「忍者」というカテゴリは伸びないな~というのが所感です。

 ここで媒介になってくるのが、やはり魅力的な忍者のフィクション作品になってくるのではないかと思います。いろんな作り手の方に「これはおもしろい設定ができそうだ!」と気づいてもらえるよう、忍者界の研究成果を楽しく、誰もが理解できるように伝えること。もし修士課程を無事に修了できたら、その辺りを頑張って行っていきたいなと思った昼下がりでした。修論執筆に向けた頭を使わない転記作業を延々とやっていると、ごにょごにょとこんなことばっかり考えてしまいます…。さて作業に戻ります…!(嵩丸記)