国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)藤沢毅先生のご指導による翻刻『女熊阪朧夜草紙』(吉丸雄哉)

2020年07月31日

 尾道市立大学の藤沢毅先生とは私がまだ大学院生の頃から親しくさせていただいており、抜刷などを頂戴する。藤沢先生は自主ゼミ「近世文学原典講読ゼミ」を毎年開催されており、学生と一緒に作った読本の翻刻を冊子にしてここ何年か送ってくださっている。2007年から2020年までに近世文学原典講読ゼミで翻刻した作品が「女熊阪」を入れて9点。卒業論文制作にあたって学生が翻刻したのが3点ある。いずれもめずらしい作品なので、読むのを楽しみにしている。
 2020年3月に頂戴したのが暁鐘成作・画『女熊阪朧夜草紙(おんなくまさかおぼろよそうし)』(文政7年刊(1824))であった。小蝶という女義賊を主人公にした作品だが、この中に忍術がでてくる。全体の話はふくらみがあるが小蝶に関する部分を中心にあらすじを簡単に説明する。肥後鞠池氏は大内氏に滅ぼされるが、鞠地氏の遺児を小蝶という女が守って大内義忠と争う。小蝶は大内家ののっとりをはかる多々良弘茂が配下煙三に与えた忍術の巻物を奪って、忍術を身につけ、大内家の蒼鹿の革を盗み、さらには将軍家から忍びさほしかの香炉を盗む。小蝶は大内義忠を襲うが逆に味方を打たれて追い詰められる。小蝶の忠心を認めて義忠は許し、鞠地家再興を認め、大内鞠地家は姻戚関係を結び睦まじく栄える。
 というもので、小蝶が八代の山中で残党を集めて熊阪の小蝶と名乗り(盗賊熊阪長範にもとづく)、貪欲非道の家を襲撃して軍資金を集めることから「女熊阪」がタイトルになる。『自来也説話』(1806)のような義賊物で女主人公にしたことに特徴がある。ここで、忍術が巻物の奪取で身につけられるのだが、忍術は「遠霞の術」といういわゆる隠形の術で、大内家や将軍家の重宝を盗むのにつかわれるのは、当時の忍術説話の典型である。小蝶が妖術ではなくて、忍術をつかっている点で女忍術使いでは非常に早い例だと注目できる。ただし、挿絵をみると外見は女性の粧いである。作中に「熊阪小蝶、南蛮鉄の鎖帷子に忍びの装束勇しく着し」(五巻九套)とあってもやはり裾などは女性のものであるが、女性らしさが残る点が当時の読者にとってよかったのだと思う。
 このように藤沢先生のおかげで忍術についてわかったのはたいへんありがたい。藤沢先生は今年度は学長の大役を引き受けられたと聞く。おそらく新型コロナウイルス感染症対策で身を粉にしていらっしゃるだろうが、学生への指導の継続もできていることを願っている。