国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)現代の忍者は、ヴードゥーの呪術に勝てるか(酒井裕太)

2020年08月24日

 院生のブログが終了という事で、久しぶりに酒井が投稿させていただきます。

 唐突ですが、世の中にあるヘンなものが昔から好きです。今でも集めたり、見たりしています。分かりやすいもので言えば、百均とかホームセンターのおもちゃコーナーにあるゴムのヘビとか、クモとかを、未だについつい買ってしまいます。意外に夏場は保存が大変なコレクションです。ヘンなものといってもそれはあくまで私から見たものであり、その対象を創っている人は大真面目なこともありますし、ふざけているものもあります。例えば映画、いわゆるカルト映画と呼ばれるようなものを「これは通にしか分からないものだよ」と高飛車に語るのではなく、ヘンなものはヘンだ、王様は裸だと堂々つっこみながら人生という大切な時間を、そんな無駄な行為に使うことが好きです。
高校の帰り道にあった、今はなきリサイクルショップ「生活倉庫」の中古VHSの300円均一ワゴンなどはお宝の宝庫でした。『首狩り農場地獄の大豊作』なんていう一人も首を狩られない作品を性懲りもなく購入し、夜な夜な見てはそのあまりのくだらなさによく眠れました。
 実は忍者というのも、私にとってはそういうものの一つでした。伊賀で育ち、そこかしこに忍者関連のものがあり、伊賀神戸駅にある大きな「伊賀上野」と書かれた劇画風の忍者の看板なんかもツボです。辺境の村に生まれたので、同じ字(あざ)には同世代の子供もおらず、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが遊び相手になってくれて、よく忍術の話なんかを聞かせてくれていました。それが中学あたりになると毒された脳内変換で忍者や忍術もヘンなものカテゴリーに入って、「うさんくさくて面白いもの」となったのですが、覗くほどに「これはそういう類ではないかもしれない」というふうになっていきました。今でもほとんどの日本人が忍者や忍術にはそういうイメージを持っていて、史実の忍者の存在自体を信じていない人もいるでしょう。そんな人が当センターのYoutubeチャンネルの動画を見れば、その内容に驚くかもしれません、というか付いていけないかもしれません。
 思春期の私の脳内にあったあのヘンな忍者像にはもう活躍の場はないような気がしましたが、ここにきて大活躍の期待が持てるステージを発見したのです。それがコンゴの「ブードゥーレスリング」です。
 先日Netflixでこの「ブードゥーレスリング」のドキュメンタリーを見たのですが、その凄まじさに度肝を抜かれました。何が凄まじいかというと、初見では、

一貫して理解不能

であることです。首尾一貫して、完全に、完璧に、日本人の私には意味不明なのです。誰と誰が何をどういうふうに闘っているのか、分からないのです。
「ブードゥーレスリング」は、アメリカのプロレスに影響を受けたコンゴ人が始めたのですが、最大の特徴が
「呪いを使っていい」
というルールです。はい、呪いです。対戦相手に呪いをかけてもOKなのです。呪いなんてかけられるのか、それは私には分かりません。しかし、ブードゥーレスリングの試合を見る限り、ここぞという場面で呪い攻撃を仕掛け、相手にダメージを与えます。何を言っているのか分からないかもしれませんが、そういうことです。また、その呪いというのも様々で、

セコンドが敵に呪いをかけて味方を優勢にする
謎の粉をふきかけて昏倒させる
敵にウナギを投げて動きを止める
時間をとめる
大蛇を放つ
呪いの舞を披露して相手を催眠状態にする
ハムスターに頭突きをさせる

以上はほんの一例です。これを大男たちが真剣にリング上で行い、観客たちは大歓声をあげて熱狂し、子供たちは恐怖におののきながらも贔屓の選手に声援を送り、チャンピオンは地元の英雄となるのです。女性の選手もいるようで、リングに上がるやなぜか現金を観衆にばらまき、それに群がる観客を、警棒を持った警官が追い払うなど、やはり世界は広いです。(一部、動物愛護の観点から不快な点があります)

ドキュメンタリー番組も終盤、ついにチャンピオンの登場。白熱した闘いに会場のボルテージはマックスです。しかし追い込まれるチャンピオン、危うし!
しかしここで必殺の呪い攻撃!
すると突如としてリング上に置かれた棺桶!すかさず呪いがかかった挑戦者を棺桶に押し込むチャンピオンとセコンド達!そして棺桶に向かって呪いをかけ続けるチャンピオン!危うし挑戦者!その運命やいかに!

次の瞬間、会場はその日最大の熱気と歓声に包まれます。
なぜならば、チャンピオンが棺からヤギを引きずり出し、高々と掲げたからです。

ヤギ?

そう、ヤギです。棺桶から取り出された挑戦者は、ヤギにされていたのでした。本物の生きたヤギです。

呪いの力でヤギになってしまった挑戦者を担ぎ、勝利の雄叫びをあげるチャンピオンに向かい、大観衆は狂喜乱舞したのでした。(このシーンで激情的なBGMを差し込むという制作陣のセンスも素晴らしいです)

しつこいですが、これはおとぎ話ではなく、コンゴで行われている「ブードゥーレスリング」という競技の模様です。
これはもう、忍者、私が中学時代に思い描いていたああいう忍者が挑戦するしかありません。ブードゥーの呪いに巻物を咥えてガマガエル攻撃で防戦する忍者、ここで書いている限りでは理解不能かもしれませんが、そんな忍者があのリングに上がって敵に大蛇でもナメクジでも、何を使おうと大盛り上がりなのは火を見るよりも明らかです。と思ったらすでに地元選手で黒い胴着を着て闘う選手はいるようです。

ただ、いろいろと書いてはいますが、選手たちにもいろんな人間ドラマがあるようで、このリングに上がる意義や、競技そのものの重要性などもしっかり描かれています。

勇気ある日本の忍者ブードゥーレスラーがコンゴに渡ってくれるという熱い希望を胸に、新型コロナの終息を待ちたいと思います。(酒井記)

参考までに、刺激が弱めの試合がYoutubeにありましたので、物好きの方はどうぞ。
※音量に注意してください
https://youtu.be/B-YZQhrOoeM