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(学生通信)映画レビュー⑬「GOEMON」<2009年、監督:紀里谷和明>(院生 郷原匠)
2020年09月07日
本日紹介する映画は、2009年に公開された「GOEMON」という映画です。紀里谷和明監督による、天下の大泥棒「石川五右衛門」を主人公とした作品です。紀里谷監督は、映画監督以外に写真家としても活躍され、他にもPVの演出や小説なども執筆されているという多才な方です。宇多田ヒカルさんの元夫としても知られています。
プライムビデオによる平均評価は★5中、★3つ半と、なかなかの高評価です。レビューを見る限りほとんどが高評価の内容ばかりで、「最高の映画です!」「全てがかっこいい!」「最高のエンターテインメント」といった感想がとても印象的でした。一方酷評レビューとしては、「ラストシーンで全て台無し」「胸焼けがする」「ギリギリ観られるレベル」といった感想がありました。忍者映画はとかく評価が分かれがちで、どちらかといえば酷評が多いのですが、今回の映画は多くの方が満足されたようで、私自身どこかほっこりする気持ちになりました。
時は安土桃山時代、織田信長(中村芝翫)が本能寺の変によって失脚し、豊臣秀吉(奥田瑛二)がその天下を極めていました。そんな中、石川五右衛門(江口洋介)は豊臣秀吉の居城に忍び込み、金銀財宝と共にある箱を盗み出します。その中には、織田信長暗殺の首謀者が豊臣秀吉であることが書かれており、親をなくし信長に育てられた五右衛門にとっては、その事実は衝撃的であり、五右衛門は秀吉に復讐を誓います。その最中、秀吉の家臣である石田三成(要潤)に仕えていた霧隠才蔵(大沢たかお)は、その箱を取り戻すために、五右衛門に近づくのですが・・・。以上ストーリーの冒頭部分を紹介しました。前回レビューした「忍びの国」と同様に、豪華俳優陣を起用しています。史実とは全く異なる完全なフィクション映画ですが、ストーリーはよく練られており十分に楽しめます。
本作品には、石川五右衛門をはじめ、猿飛佐助(ゴリ)、霧隠才蔵、服部半蔵(寺島進)といった、忍者界では主役級の人物続々とが登場しており、忍者オタクの皆さんにとっては興奮するような内容となっています。面白いのは、猿飛佐助が石川五右衛門の舎弟になっていること、石川五右衛門と霧隠才蔵は共に織田信長に育てられ、服部半蔵から忍術を習得したこと、秀吉の側室である茶々(広末涼子)が石川五右衛門と淡い恋仲になっていること、などが挙げられます。斬新なストーリー設定で、非常に好感を持てます。
巷では石川五右衛門は伊賀の忍者であり、百地丹波から忍術を学んだといった伝説が流れていますが、それが史実であったかどうかは断定できません。石川五右衛門忍者説の検討については、国際忍者研究センターのYoutubeチャンネルに、三重大学人文学部教授・吉丸雄哉先生が詳しく解説されていますので、そちらをご覧頂ければと思います。
石川五右衛門が忍者と知られるようになるのは、江戸時代の歌舞伎や読本、合巻などの影響が大きく関係しています。「忍術を使って大事なものを盗む」「ドロンと消えるなど摩訶不思議な妖術を使う」といったイメージの忍者像の形成に、石川五右衛門は大きく貢献しています。特に『賊禁秘誠談』には、石川五右衛門が、豊臣秀吉が大事にしていた千鳥の香炉を盗む、といった話が書かれているので、今回の「GOEMON」製作にあたっては、これらの書物を参考にしているかもしれません。
話を元に戻しますが、この映画の注目点は高品質のCG技術です。予算をいくらかけたのか分かりませんが、とにかくすごいCGで、邦画のレベルをはるかに超えているように感じました。五右衛門のアクションシーンも見事なもので、助走をつけずにビル4階分に相当する垂直ジャンプを行うなどといったような、物理法則を全面的に無視した演出が多くなされており、非常に見ごたえがありました。
ただ、レビューにもありましたが、ラストシーンが少し残念だったように感じました。映画のラストでは、五右衛門は大分ご乱心の様子で、関ケ原の合戦において、膨大な数の石田三成・徳川家康両軍に一人で立ち向かっていき、演説口調で世の現状を嘆いておりました。やり口がまるでテロリストのようであり、前半と後半とで五右衛門の人格が一気に変わってしまったことが少し残念でした(前半の五右衛門は、ややひょうきん者で親しみやすいキャラクターでした)。しかしそれを除けば、忍者映画の中では最高峰に位置付けられる作品だと確信しています。ぜひとも多くの方にこの五右衛門ワールドを実感して頂きたいです。
以上で今回のレビューを終わります。次回は「BLACKFOX:Age of the Ninja」(2019年、監督:坂本浩一)をレビューしたいと思います! (院生 郷原記)