国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)渡辺洋一『たびえほん 忍者の里 伊賀上野』(吉丸雄哉)

2020年10月23日

 伊賀上野に初めて行ったのは三重大学に着任した2010年5月のゴールデンウィークで、芭蕉翁生家、芭蕉翁記念館、伊賀流忍者博物館、忍者ショー、俳聖殿、伊賀上野城、鍵屋の辻、伊賀越資料館を見学し、十分堪能した。もともと長崎出身で海志向なので、休みのときはどちらかといえば伊勢や鳥羽や志摩に行くことが多かった。変わったのは2012年に伊賀連携フィールドができて、伊賀でいろいろな取り組みをするようになってからで、コロナ禍が始まるまでは毎月のように、あるいは多いときは月に3回以上伊賀に足を運んでいた。
 文献も沖森書店や伊賀古文献刊行会の刊行物や地域誌『伊賀百筆』なども伊賀に関係するものは購入するようになった。基本的には研究の資料として購入しているが、今回紹介する渡辺洋一『たびえほん 忍者の里 伊賀上野』(吾八、1985)は目的に関係ない目の楽しみの品である。
 渡辺洋一『たびえほん 忍者の里 伊賀上野』は箱、帙入、縦16.5センチ×横18.1センチで線装本四つ目綴、10丁(実質8丁)。タイトルは何を正式としていいのか悩ましい。帙には「伊賀上野」、表紙は「伊賀上野 たびえほん 渡辺」。扉は「ニンジャノサト イガウエノ チクサ工房」。刊記には「たびえほん 忍者の里 伊賀上野 限定六十五部之内二十八番目 渡辺洋一 商い宿・吾八」とあって、この刊記は水蜘蛛型に書いてあるので「たびえほん」と「忍者の里」のどちらが先か心もとない。今の本は刊記を正式な題名にするので『たびえほん 忍者の里 伊賀上野』をタイトルとしておく。
表紙に印を結んだ忍者が登場する(写真)。本文8丁(和装本の裏表2ページをひとまとまりとして数えるのに用いる単位が丁)にはかたやき、変わり衣、忍熊手、カスガイ、坪錐、手裏剣、苦無、忍者屋敷が載っている。忍具が多いのは本文に「忍具には道具としての美しさがある」とあるように渡辺洋一の美的感覚の反映だろう。
 作者の渡辺洋一について不勉強で知らなかっただが、ホームページ(https://hanganokura.sakura.ne.jp/index.html )があってそれによれば、年配ながら存命で依然ご活躍のようである。紹介にあたっ写真を載せるか載せないか迷ったが、表紙なら許されるかとそれのみ紹介しておく。限定六十五部と少ないが、「日本の古本屋」サイトにもあるようで、皆さんが実物をご覧になる機会があることを願っている。(吉丸記)