国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)国際忍者研究センター新収資料『伊乱記』について(吉丸雄哉)

2020年10月30日

 国際忍者研究センターの業務のひとつに忍者関係の資料収集がある。木津家資料のように寄託のものもあれば購入したものもある。設立当初の予定では、伊賀市南庁舎のあとに上野図書館などと一緒に入って、展示室をもってそこに収蔵品を恒常的に展示していたはずだが、伊賀市の方はよくご存じのようにいろいろあってそれに至らないのが現状である。ハイトピア伊賀2階の国際忍者研究センター事務室で展示ケースが大きな場所をとっているのもそういう理由である。昨年度は「伊賀と忍者」展(2019.6.20~2019.8.22)のほか、全国図書館大会三重大会(2019.11.21~22)の特別展示で公開しているが、今年度はコロナ禍もあってなかなか公開する場もない。とはいえ、資料収集は続けており、最近センターあるいは私の元に入った資料をいくつか公開していこう。まずは『伊乱記』を紹介する。『伊乱記』は天正伊賀の乱を記した軍記で、江戸時代には刊本はなく、『伊乱記』のすべての写本は編著者を記していないので不明だが、延宝7年(1679)の菊岡行宣(如幻)跋がある本(沖森文庫本)により、現在では伊賀の住人菊岡如幻の編著と考えられている。

 下に簡単な書誌を紹介する。

 伊乱記、いらんき、実録、写本(33.5丁)、縦23.9×横17.0センチ、一冊、[菊岡如幻編]、序跋なし、黄土色の表紙、表紙直書「伊乱記 伊賀國阿拝郡久米村奥出氏所持」。奥書「明治十八年酉年五月上旬著之 伊陽久米村住 奥出安次郎著書」。

 久米村は現在の伊賀市久米で、名阪国道上野東ICから下りたあたりの久米川流域が含まれる。書写者の奥出安次郎の詳細は不明。
 奥出本の見出しでは「横山討耳須」や「伊賀没落」までである。これは『伊賀旧考 伊乱記』(伊賀古文献研究会、2006)に翻刻された上野図書館蔵『伊乱記』10巻と比較すると、巻6の3「横山与助、耳須弥次郎を討捕事」からはじまり、巻7の8「脇坂康治、伊陽の守護と成事」の冒頭までである。奥出本「伊賀没落」は上野図書館藏本巻7の7「伊州没落静謐」に相当するが、実際には次の節の冒頭まで続いたといえる。末尾は「末ワ追テ考ヱ次巻ニ著ワスヘシ」とあるが、第二次天正伊賀の乱の実質的な侵攻から平定までを記してあれば十分だったろう。
 上野図書館藏本とは細かい点が異なっており、書写関係はないと思われる。このような実録は地元で書写、回覧されることがよくある。明治30年に百地織之助の『校正伊乱記』が刊行されるが、それ以前の伊賀で『伊乱記』が受容されていた歴史を示す資料として重要である。(吉丸記)