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(エッセイ)『東海の名城を歩く』と『織田信長の伊賀侵攻と伊賀衆の城館』(吉丸雄哉)
2021年06月21日
ここのところ、世間では城ブームのようで、それも天守閣が立派な城郭だけでなく、素人目にはほとんどただの野山といってもよいような山城のあとを歩いたりする番組を散見する。想像力が不足しているためか、出不精のためか、そういった城番組を積極的に見ることもなく、三重県も住んで十年以上になるが、城跡を気にすることもなく過ごしてきた。
先日、和田裕弘『天正伊賀の乱』を読むと、知っている伊賀や伊勢の地名について城がよく出てきた。伊賀で遠望ぐらいした城跡(の山)はまあまああるようで、興味を持った。『天正伊賀の乱』では『伊賀の中世城館』(1997)がよくひかれているが、現在手に入れるにはややためらわれる値段になっている。
そこで郷土本に強い津市内の別所書店に行くと中井均・鈴木正貴・竹田憲治『東海の名城を歩く』(吉川弘文館、2020・3)が置いてあった。また最近読売新聞の書評で高橋成計『織田信長の伊賀侵攻と伊賀衆の城館』(オンデマンド出版、2021・4)があることを知った。後者はAmazonで頼むと刷って送ってくれるもので、装丁は簡素ながら本自体が1850円と安価なのは助かる。
『東海の名城を歩く』はタイトルのとおり、規模の大きい立派な名城を扱っていて、尾張で14、三河で23、三重県で34の城を紹介しているのに対し、『織田信長の伊賀侵攻と伊賀衆の城館』は伊賀だけで小さな城も含めて73の城を紹介している。合戦などにあわせた時代順にならべており、有名な合戦に関係していようがいまいが、どの城も1~2頁をあてている。『東海の名城を歩く』は一城3頁で紹介していることが多いが、「北畠氏館・霧山城」など6頁を費やしている城もある。地図は両方とも載っているが、一城の規模の違いもあって『東海の名城を歩く』のほうが『伊賀衆の城館』より範囲が広い。こういった城本の良著が続々と刊行されるのはやはり城ブームといえるだろうが、著者らの研究は一朝一夕にならないことは一目瞭然で頭が下がる。興味がある人は両方とも手に入れておくとよいだろう。
なお『東海の名城を歩く』は竹田憲治「忍者の城」というコラム(301頁)に「伊賀市には、三重大学を中心とした、「国際忍者研究センター」があり、実証的な忍者研究も進みつつある」と「国際忍者研究センター」への言及あった。竹田憲治氏には2017年7月15日に国際忍者研究センターの忍者忍術学講座「戦国時代 伊賀国の石造物情勢は複雑奇怪なり」でご講演いただいているが、このような記載には畏れ入る。(吉丸記)