国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(学生通信)映画レビュー㊴「Relic~tale of the last ninja~」<2017年、監督:藤沢文翁他>(院生 郷原匠)

2021年06月23日

本日紹介するのは、2017年に上映された「Relic~tale of the last ninja~」という作品です。映画ではなく、「新感覚・音楽朗読劇」と呼ばれるものです。有名声優4名(中村悠一氏、朴璐美氏、蒼井翔太氏、井上和彦氏)と新・純邦楽ユニット『WASABI』で構成された「シアトリカル・ライブ」という団体が主催しています。

プライムビデオでの平均評価は、★5中、★3つ半となかなか高い評価でした。レビューについては、「声優が素晴らしい」「声優、演奏が全て一流」「良い!!!」といった高評価のものばかりでした。これといった酷評はありませんでした。

時は江戸時代初期。幕府の体制が未熟な頃、仕事を失った忍者達は生きる場所を失い、盗賊団へと成り下がっていました。幕府はそんな忍者達を捕縛しようと試みますが、忍者達は摩訶不思議な忍術を駆使して幕府を苦しめます。そんな中、風魔忍者の生き残りであった鳶沢甚内(中村悠一)と庄司甚内(蒼井翔太)は、真面目に呉服店を営んで生計を立てていました。また彼らの兄貴分である高坂甚内(井上和彦)は、幕府の「忍盗賊改方」という役職に就き、暴走する忍者達を捕縛していました。彼らは「江戸の甚内三人衆」と呼ばれていました。ある日、甚内の呉服店に一人の少年(朴璐美)がやってきます。彼は忍術を学ぶために鳶沢甚内の下を訪れたそうですが、実は彼こそが、甚内三人衆の頭領であり、先日処刑された風魔小太郎の息子だったのです。その頃、忍盗賊のリーダーである服部半蔵は、自分達に従わない甚内三人衆を殺害すべく、恐ろしい戦略を練っていました・・・。以上ストーリーの前半をご紹介しました。

朗読劇ということで、この重厚なストーリーを声だけで表現します。本当に面白いのかなと当初は不安でしたが、めちゃくちゃ面白かったです。声優の方々の高い声質と表現力で、一気にその世界観に引き込まれてしまいました。加えて『WASABI』の皆さんによる三味線や縦笛の音楽、舞台演出のライトや煙が上手くミックスされて、まるで1本の映画を見ているかのような気分になりました。本当に衝撃的で、一気に彼らのファンになってしまいました。

脚本も上手く練られており、実際に映画化しても成功するだろうと思います。江戸期における忍者の没落を描いた悲劇的内容ではありますが、所々コメディ要素も取り入れており、バランスの取れた脚本になっています。また脚本を作る以前に、忍者についてかなり研究されたのでしょう、専門的な忍者の知識も登場します。忍者研究を行っている身としては、本当に嬉しく思いました。

ちなみに今回の主役は「甚内三人衆」ですが、おそらく江戸初期に活躍した盗賊、「向崎甚内」をモチーフにしているものと思われます。三浦浄心『見聞集』によると、彼は、盗賊として暗躍していたものの、逆にその経験と知恵を活かして、盗みを働いていた風魔一族を捕縛し、「盗人狩り」として活躍したといわれています。しかし彼も後に「大盗人」として処刑されてしまいました。伝説的な人物とされ歌舞伎の演目にも登場しています。

また風魔忍者については、本作にも登場しますが「風魔小太郎」が特に有名です。異形の風体として知られ、200人ほどのラッパ(北条氏に仕えた忍び)を抱えていたとされています。平山優氏が『戦国の忍び』(角川新書、2020年)で、風魔について詳しく取り上げておりますので、そちらもご覧頂ければと思います。

現在は朗読活動を行っていないようですが、コロナが落ち着いたら、また活動を再開してほしいです。もし次回も忍者関係作品を制作する予定であれば、国際忍者研究センターとしても何かご協力できればと思います。

以上で今回のレビューを終わります。次回は「虎影」(2014年、監督:西村喜廣)をレビューしたいと思います!(院生 郷原記)