国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)画期的な『万川集海』の伝本研究(吉丸雄哉)

2021年07月05日

  2021年6月26日に三重大学忍者忍術学講座のYouTube配信で福島嵩仁「『万川集海』の伝本研究と成立・流布に関する研究」が公開された( https://www.youtube.com/watch?v=VXitJo9Ou1Y )。福島嵩仁は三重大学人文社会科学大学院地域文化専攻忍者忍術学コースに在籍し、2021年3月に修了したが、その修士論文の内容をまとめたのが今回の内容である。
 修士論文がもとになっているため、高度な内容を話しているのだが、福島自身が上手に解説してくれているので、『万川集海』について初めて知る人も十分理解できるだろう。幕府献上本のように思われ、また国立公文書館という公的機関に所蔵しているため閲覧・複写しやすいこともあって、国立公文書館内閣文庫本が『万川集海』研究にはよく用いられてきた。今回の研究で、内閣文庫本をはじめとする甲賀本系よりも、伊賀流忍者博物館沖森文庫を代表とする伊賀本系のほうが成立が先行しており、今後は伊賀本を積極的に用いる必要がよくわかる。
 私が専門とする文学は、史学よりも、研究の資料が一般に広く公開されているものが多い。もちろん、作家の日記や書簡や原稿など著作権管理者に関係がなければ見られないものも少なくないのだが、文学作品そのものは公開されているので、秘蔵の1点ものを見なければしばしば成立しない歴史研究よりもかなり楽である。
 今回の研究も伊賀流忍者博物館やその他多くの機関が資料の利用を許可しなければ成し遂げられなかった。希望しても閲覧できなかった資料もまだあったようだが、それでも今回多くの機関が寛大な姿勢をみせてくれたおかげで大きく研究が進歩したといえる。
 講座の内容は2021年8月31日に発行予定の『忍者研究』4号(国際忍者学会)に論文「『万川集海』の伝本研究と成立・流布に関する考察」として掲載される。通常は本誌14頁までが論文掲載の分量となっているが、論文の重要性を鑑みて26頁での掲載が編集委員会によって認められている。
 この論文を無料で読むにはリポジトリ登録される2022年9月を待たねばならない。ここは9月までに国際忍者学会に加入し、9月上旬には『忍者研究』4号を手に入れて欲しい。9月11日には甲賀市で国際忍者学会大会が開催されると聞いているが、休み時間や交流会では大きな話題になるのではと思っている。(吉丸記)