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(エッセイ)埼玉県立嵐山史跡の博物館の企画展「実相 忍びの者」について (吉丸雄哉)
2021年10月21日
コロナの影響で美術館・博物館の展示も延期や中止になったものが多かったが、第5波が終息してようやくいろいろな展示が開催されるようになった。見に行きたいが会期が短く見送ってるものも多い。などと泣き言をもらすようでは研究者としてダメなのだろう。
さて、忍者忍術関係の展示はここ最近増えてきている。日本未来館の「The NINJA -忍者ってナンジャ!?-」(2016.7.2~2016.10.10)や三重大学附属図書館(現情報ライブラリーセンター)「伊賀と忍者」展(2019.6.20~2019.8.22)は早いものだが(目録は情報ライブラリーセンターのホームページから見られる)、2021年度では九度山・真田ミュージアムの「真田忍者、参上!」(2021.4.1~2022.3.27)、中之条ミュゼ「真田忍者展~上州を翔けた古今無双の勇士たち~」(2021.7.20~2021.12.19)の企画展がある。
常設館も増えており、2021年5月30日に忍者を専門とする岩櫃真田忍者ミュージアム「にんぱく」が開館した。最近開館した忍者の専門館といえば、2019年4月20日に開館した小田原城歴史見聞館NINJA館と2020年9月20日に開館した甲賀流リアル忍者館があって、どちらもまだ行っていないのだが、おいおい足を運びたいと思っている。
展示でいえば、今年もっとも注目していたのが、埼玉県立嵐山史跡の博物館の企画展「実相 忍びの者」(2021.8.7~2021.9.20)であった。三重大学忍者忍術学講座「戦国の忍びを考える-永禄五年葛西城忍び乗取作戦-」の講師で、「戦国の忍びを追う―葛西城乗取と羽生城忍び合戦ー」『埼玉県立史跡の博物館紀要 14』(オンラインで読めます)の著者の岩田明広学芸員が企画した展示だったからである。
最終日の直前に実際に見ることができたのだが、感心したというか驚いたのは、原史料がどんどん出てくるマニアックな展示だったことである。翻字がついているとはいえ、古文や古文書のままの字だけの原史料か写真版がバンバン展示されているのである。私は職業柄それらは多少は読めるし、忍者をここのところ勉強してきたので、展示の内容はそれなりにわかるのだが、忍者好きの小学生とかが見てもほとんど意味がわからないかと思う。
集められた史料はすごいもので、国立国会図書館蔵の『正忍記』、内閣文庫の『万川集海』が同じ棚で展示されていたのは感動した。「葛西城乗っ取り」に関する原史料もたくさん展示されており、なるほどこういったものから歴史は構築されていくのだとうならされた。
文献が多かったが、川越歴史博物館所蔵の手裏剣など忍器がたくさん展示されていたので、文献が苦手な人もその点では満足できたと思う。面白かったのは、石つぶてや土製マキビシが展示されていたことである。石つぶては実際に戦国時代に使われたものだが、藤田西湖『図解手裏剣術』以外に紹介している本はほとんどないように思う。土製マキビシはとげつきの謎の物体がマキビシであると判断したもので、現物は八王子城でしか見つかっていないが、今後そういったものだとわかってくれば報告例も増えるだろう。
9月19日(日)に毛呂山町で開催された博物館のシンポジウム「戦国時代の忍びを考える?武蔵国での戦いをめぐって?」はまたまたマニアックなものだったが、聞けば例年200~300人の聴衆を集めるらしく、当日も広い会場にまばらに座った人は200人をこえていたように思われる。これだけの人が、都心から電車で1時間以上かけて難しいシンポジウムのために集まってくるのはさすが関東である。
展示は終わってしまったが、充実した図録があるので、興味がある人は売り切れになる前にお早めに問い合わせるとよいだろう。また、今回は図録の英語版も刷られており、すでに残部僅少だと聞いたので、問い合わせて売り切れだったら申し訳ないが、素晴らしい出来なので、売り切れていたら架蔵の図書館などでご覧いただきたい。
忍者に関する常設館も増えており、また企画展が開催されたことは、ここのところの忍者研究の進展の反映だろうが、コロナ前から企画されたものが多く、今回のコロナ禍が今後悪い影響を及ぼさないことを願っている。(吉丸記)