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(エッセイ)『間林精要』と『間林清陽』 (吉丸雄哉)
2022年07月15日
2021年12月に甲賀市で「間林清陽(かんりんせいよう)」という忍術書の写本を同市在住の地域おこし協力隊の福島嵩仁氏が発見し、2022年5月19日に記者会見が行われ、内容がマスコミを通して公開された。横本一冊で40丁。表紙に直書きで「軍法間林清陽巻中」とあるので、さらに上下巻があることがうかがわれる。
内閣文庫本の忍術書『万川集海』を見ると、巻1の藤林保武署名の序文に「故挙間林精要之綱領忍術書二十有余巻并或問凡例等而軍事之奥義者也(ゆえに『間林精要』の綱領【重要なところ】、忍術書二十有余巻ならびに「或問」「凡例」等軍事の奥義を挙げるものなり)」とあり、また同じく巻1「万川集海凡例」の最初の項目に「是書を万川集海と名くる事始より終に至るまて間林精要の綱領を挙記し用るに」とあって、『間林精要』の重要な部分が『万川集海』に収録されているとされていた。
このように『万川集海』を考えるのに重要な『間林精要』であるが、委細不明の書籍である。足立巻一『忍術』「忍書不信」(平凡社、1957)は、「この『間林精要』はまだ閲読の機会を持てないのだが、朝鮮の兵書である。それはほとんど中国のものの引き写しに近いと想像される」(158頁)と記していた。なぜ足立巻一がそう判断したのか不明だが、とにかく手がかりが欲しいと、今から十年ほど前に韓国の文学・史学の研究者に問い合わせたのだが、朝鮮の兵書にそのような書物はないとの回答だった。
『間林清陽』が『間林精要』ならば正体不明の書物が見つかってたいへんめでたいことだが、『間林清陽』収録の48の忍術のうち、現在公開されているものが『万川集海』と内容的に重複がほとんどなさそうなのは気になっている。また、『間林清陽』の横本という書式から実用性を重視した内容だと推測できる。『間林精要』が『間林清陽』と同一なのかもいずれ明らかになっていくだろう。もちろん『間林清陽』が『間林精要』でなくとも、新しく発見された忍術書として十分に高い価値がある。(吉丸記)