国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
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(エッセイ)『忍者の掟』の『間林精要』 (吉丸雄哉)

2022年07月27日

 2022年度前期も終わりが見えてきた。今期は忍者学のコースで大学院生のブログの投稿が途中で滞ってしまったが、コロナも昨年度より下火のため、社会人大学院生らが忙しくなったことも一因で、決して悪いことばかりではない。大学院生の玉田玉秀斎さんから遅れていた分を頂戴したので順々に掲載していくつもりである。私は昨年度より忙しくなくなったのだが、忍者以外の研究をやっていたので、忍者ネタに触れる機会が減って、ブログがなかなか書けなかった。

 大学院の授業で、ブログに間林清陽のことを書いたこと(2022年7月15日、7月19日分)を院生らに伝えた。7月21日にも読売新聞三重版で大きく記事になっており、ひと月経ってもニュースが続いているようである。延享5年(1748)の成立であることは、重要な情報だが過去のブログに書き忘れていたことだった。表紙に鉛筆で「延享五辰年」と書かれていたのは、過去の報道の写真で見ていたが、それが根拠ではなくて、成立に関するはっきりした識語があるのだろう。

 内閣文庫本『万川集海』が延宝4年(1676)の藤林保武序のため、今回発見された『間林清陽』のほうがずっとあとに書かれたことになるが、そのあたりは福島嵩仁さんがしっかり考証するのだろう。

 内容については、YouTube で福島さんが解説しているチャンネルのNinTubeに「【間林清陽】甲賀で新発見された幻の忍術書に書かれた「忍者の武術」を検証!」という紹介と検証の動画が2022年7月15日にアップロードされており、ざっと拝見すると武術に関する内容が多かった。犬よけの呪文が試されていないのは残念だが、いずれ試される日が来るかもしれない。

 さて、『間林精要』だが大学院生の河村昌樹さんから川上仁一先生の『忍者の掟』(角川選書、2016)に載っていますと指摘をうけた。忍者のつかう「亀のばん」という潜水具について、

 もう一つは「亀のばん」で、『間林精要』という『万川集海』の種本とされる秘伝書や、他の伝書にも出てくる。亀の形をした潜水具で、ギヤマン(ガラス)で作ると書かれておりこれを着て潜れば、なかにある空気で呼吸できるという。(98頁)

 とあって、99頁に写真が掲出されている。この99頁に掲出されている写真は海外で行う忍者忍術学講座で川上先生が時折スライドに出しているもので、『忍者の掟』を読んだときにこれが『間林精要』に収録されていると知って苦笑したのだが、そのことをすっかり忘れていた。苦笑したのは、私が忍者研究を始めたころに『間林精要』を探していて、川上先生にもご存じでないかうかがったからである。

 さて、川上本『間林精要』だが『忍者の掟』から僅かだが情報が得られる。「亀のばん」について、先の引用に続けて、

 机上の理論ではそうだろうが、なかの空気は微々たるもので、かえって危険だと思われる。それよりも、息を吸って長く止めている普通の潜水方法の方が、よほど実用的だ。(98頁)
(中略)
江戸時代中期以降に書かれた秘伝書には、このように信用できない部分や不明な所が多々ある。
(中略)
その点、江戸時代前期に編まれた『軍法侍用集』には、荒唐無稽なものは、なにもなく、夜討や松明など単純なものしか書かれていない。(99頁)

 とある。『軍法侍用集』は初版が承応2年(1653)なので江戸時代前期といって間違いない。「江戸時代中期以降に書かれた秘伝書には、このように…」とあるので『間林精要』が江戸時代中期以降に書かれたという証拠があるか、そう判断したと思われる。江戸時代をどう三分するかは見解が分かれるが、およそ中期は18世紀であって、これは発見された『間林清陽』の延享5年も含まれる。

 川上本『間林精要』の「亀のばん」が、今回発見された『間林清陽』中巻にあれば、おそらく福島さんが言及しているだろう。だから、見つからなかった『間林清陽』上巻・下巻に「亀のばん」の記載があるか、今後気をつけておくことになるだろう。(吉丸記)