国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)忍夜討に参加しました(吉丸雄哉)

2022年10月28日

 2022年10月22日に水口岡山城跡で開催された「忍夜討2022~甲賀・水口岡山城の戦い~」に参加しました。「忍夜討」とは会場で司会のお笑いコンビ「ノーサイン」のお二人が「(模擬)刀で戦うサバゲー」と説明していましたが、それが一般的にはわかりやすいでしょう。世界的に見るとコンバットLARP(Live Action Role Play)に分類されるもので、YouTubeを探せば海外の動画がたくさんありますが、ヨーロッパの時代祭に昔の戦士の格好をした人が戦う遊びです。日本だと「ガチ合戦」のようなリアルな再現を求めたものがありますが、それよりもハードルを下げています。
 トイザらスで売っているようなソフト刀で、両肩につけた押込式のライトを叩いて勝敗をつけます。目を守るゴーグルが配布されており、安全面は配慮されています。「忍者側」と「武将側」とそれぞれ50人ずつ募集があって、ソフト刀・ライト・ゴーグルを共通で渡されたほか、忍者側には黒の忍び装束、武将側には濃赤色の装束と柔らかい素材でできた兜と胸当てと垂れをもらいました。もちろん返却するのですが、一般5000円の参加費でずいぶんよい装備がもらえると思いました。近江茶(195g)の紙パック一つと「甲賀流忍者兵糧丸」一袋(甲賀で買ったことがあって500円する)も頂戴したのも驚きました。
 国の助成金が出ているようで、甲賀市長がご挨拶に来たことや、水口岡山城の会の人、地元の青年団やおじさんおばさんたちが運営に協力してくれていたのも、地元の期待度がうかがわれました。夜食抜きで開始だったのでおばさんたちが握ってくれた塩むすびが途中いただけなければハンガーノックしていたでしょう。大感謝です。
 50人ずつの定員で、忍者側はやはりすぐに埋まって、実際に自前の忍び装束で来た人がたくさんいました。武将側が足りなくなるだろうと思って、私は武将側に参加しましたが、やはり武将側が少なくて、40人程度だったはずです。足りない分は地元の青年団から入ってくれていたようですが、この人数差はずいぶん堪えました。武将側は大将と副将4人がいて、ポイントが高いのですが、重い甲冑を着ているので戦うのは不向きで、また討ち取られては困るので前線に出られません。武将側は常に人数不足に悩まされました。また、身体能力に優れた人たちが忍者側に多くて、武将側は「(忍者側は)ヤバイやつおる」と繰り返しぼやいていました。駒落ちの将棋の不利な側を上手と指す感じでした。
 構成が全二回戦になっており、武将側が城に陣取るのが一戦目、武将側の大将が討ち取られたので攻守を入れ替えたのが二戦目でした。私個人でいえば、一戦目は本陣前に入って大将や副将を守る役割をしたのでほとんどまったく戦いませんでした。二戦目はポイントをとらねばならないので攻勢に出た武将側兵士にまじって戦い続けました。
 結局、一度もポイントをとられず、またポイントをとることができませんでした。これは私が慎重だからで、普通はポイントをとったりとられたりです。3ポイントまで生命点があって、それがなくなると「墓場」に行くというルールでした。私は剣道の経験がありますが、正直ちょっとぐらい武道の経験があっても大差ないです。コンバットLARPをほかでもやった経験からすれば、人数が多いほうが圧倒的に有利で、2対1となると横から切られてしまいます。ソフト刀を持って戦っても側面攻撃を避けるために戦列を組むので、どちらかといえば古代ローマ軍みたいな感じで戦いました。
 普通に昼にやる「刀のサバゲー」でもいいかなと思ったのですが、夜にやってよかったのは、暗いので戦場がよく見えない点です。「戦場の霧」が再現されていたと思います。一戦目で飛び込んできた兵が味方か敵かわからずに大将が討ち取られてしまったのですが、これも『太平記評判秘伝理尽鈔』などが、黒装束ではなく敵と同じ服装での潜入が有効であるとしている証しになったと思います。
 間者という裏切り者が入っているルールがありました。実際には活動するタイミングがとりにくく、本当のいくさでも得た情報を持ち帰るのはたいへんだったと思います。戦闘がはじまると本当の忍びにはあまりすることがなくなって、むしろ開戦以前の情報収集が重要な気がしました。ただ、間者からの情報をこちらは欲しがっていたのですがもらう方法もなかったです。
 間者はそれぞれ他の兵が知っている合言葉を知らないルールでした。忍者側は最初に合言葉をチェックして間者のあぶり出しを行ったのですが、武将側は大将がみなを信じると言って行いませんでした。これはいかんと思い、一戦目で副将の守りについたとき、合言葉の確認を提案して、その場にいた数人みんなで確認したのですが、副将に答えた私の声がでかかったらしく、間者に聞かれてしまったそうです。それで副将ひとりをのちに失い、間者の人は賞をもらっていましたが、私の失態のせいでして、そのとき私は前方に出ていて何が起こったか知らなかったのですが、あとでその事実を知って恥ずかしい思いをしました。
 一番印象に残ったのは水口岡山城跡からの眺望、とくに夜景です。水口岡山城は国道一号線に面した山城で、地図ではわからなかったのですが、実際はかなりの標高があります。結構歩いて登るので、本丸からの360度の眺めがすばらしく、とりわけ夜は甲賀市はもちろん琵琶湖方面の町の灯りが素敵でした。山なので電灯などなく、足もとが暗いので、自分ひとりでは絶対にそこから夜景を見る機会はなかったはずです。リアルで生き死にを争っている地域があるなかで、平和な町の灯りを下にして、いにしえの合戦を再現する遊びができたのは幸せでした。
 NHKも全国と地方の二つ、ケーブルテレビ局に、滋賀県の民放局も来て取材をしていました。こうしたイベントはきちんと記録して報道されてこそです。NHKは来年二月に大きく報道すると聞いています。仕掛け人のFさんに焦点を当てた放送もあるそうですから、楽しみにしています。(吉丸記)