国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
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(エッセイ)2023年度大阪古典会「古典籍善本展観入札会」の忍者資料メモ(吉丸雄哉)

2023年06月01日

 和古書とよばれる前近代の本を手に入れる場合、古書肆からそれぞれ購入する以外に古本市や古典会から購入する方法がある。古本市がその場で現金を払って購入するものなら、古典会は入札によって購入できるかが決まる。海外のサザビーズやクリスティーズのように、じかにせり上げていくオークションは日本では流行らず、何枚かの札を入れて、他と競うのが日本の古典会である。
 東京では明治古典会の「七夕古書大入札会」(7月)と東京古典会の「古典籍展観大入札会」(11月)が、大阪では大阪古典会の「古典籍善本展観入札会」(5月)が有名である。入札は会に所属する業者を通じて行わねばならないが、下見会は誰もが観覧可能である。
 さて、ここ何年か大阪古典会に忍者関係資料がよく出品されている。他の古典会にはなかなか出てこないので、大阪に強い業者がいるのだろう。書名に「忍」関係の字がなくて一見して忍者と関係があるとわからないものもあれば、目録の解説に忍者と関係があるように書いてあっても実際にはまったく関係のないものもある。基本的に前近代のものが出品されるのだが、書写のあたらしい新写本とおぼしきものもある。印刷本なら同版本から類推も可能だが、写本は現物を見てみないとわからないことが多い。どこかの機関が落札したなら、公開してくれて閲覧の機会もあるだろうが、個人が落札した場合はそれから長い間日の目を見ないことも少なくない。
 先日行われた2023年度の「古典籍善本展観入札会」にも忍者関係の資料が10点近く出品されていた。興味を持って大阪古書会館の下見会に行ったので、そのときのメモ書きをここに記しておく。
『武要千箇条』は、表紙に「文政七年甲申天二月上浣日/武要千箇条/藤原彭」とある写本で武芸関係のことが多いが、忍びについての記述も多かった。
『評之巻』は、今回見たなかではもっとも忍者について詳しい本だった。なにかの兵法・忍術関係の題について「註曰」として注釈をつけた写本だが、「註」のもとになる書物はすぐにはわからない。巻末に「天明五年吉日/秋山氏」という識語があるだけなので由来もよくわからない。
一緒に出品されていた『武兵心得記』が『評之巻』と関係があるように思われる。『武兵心得記』にはいろいろな合戦道具を収録され、そのなかの一部に忍びの道具が含まれる。識語に「寛政元己酉十一月吉日/秋山兎毛光長/福嶋九衛門太夫清繾流終」とあり、『評之巻』と書写年が近いので、『評之巻』の「秋山氏」が『武兵心得記』の「秋山兎毛光長」なのかもしれない。
 いずれにしても落札した方が今後これらの本をご紹介くださるなら忍者研究にとって幸いである。(吉丸記)