国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(学生通信)「色、纏う」(院生N)

2018年11月21日

人文社会科学研究科修士課程1年のNです。忍術書『正忍記』「忍ぶ出立ちの習い」の箇所でこんな一文がありました。

着るものは茶染、ぬめりがき、黒色、こん花色。これは世に類多ければ、紛るる色なり(p47)

これは当時の人々が着ていた衣装の色について述べた一文です。茶色や紺色、黒といった中間色が多く、これらの色の服を着ていれば目立たず、怪しまれずにすむという内容の箇所です。当時の庶民が着ていた服は総じて目立たない色が主流でした。その理由は、近世になると庶民の贅沢を禁止するお触れが出たためです。時代劇では高貴な人間は鮮やかな衣装をまとっていますが、それはあくまでも彼らが高い身分にいるためです。

これだけで判断すると当時は色に関する意識は低かったと思ってしまいますが、『正忍記』「変化の論」では、「うす墨に朱おしろいをまぜる。うすおしろいに、きわだ、朱、おうどませる。うすきわだにべに、あいろまぜる」(p81~82)と、顔に塗る染料についての記述があります。中間色以外の鮮やかな色が文の中に登場しますね。

近世は目立たない色の時代だなあと思っていたのですが、日本人の色に対する意識は低いわけではなかったのだなと思いました。また、華やかなものは禁止されていたとはいえ、神社や演劇の世界では華やかな色を使うことは許されていました。私事ですが、3級色彩コーディネーターの資格を持っており、余計この部分に惹かれたのかもしれません。

ところで僕は、お店に行くときに黒または紺色のポロシャツを着ないようにしています。というのも、過去2回この服を着てレンタルビデオ店、洋服店に行ったときに店員さんに間違われた経験があるので……。もしかして僕は知らない間に「忍ぶ出立ちの習い」を会得していたのでしょうか? (院生N記)

 

引用文献

『忍術伝書 正忍記』藤一水正武 解読・解説中島篤巳 角川学芸出版 2014年