国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(学生通信)清流が爽やかだったから忍者装束 (院生三橋源一)

2018年11月02日

カミュだっただろうか。「太陽が眩しかったから殺人」というフレーズを覚えている。今回のタイトルでふとそれを思い出したが、小説の様に人間社会の不条理を問うのではない。

イベントで忍者装束の人が「覆面は息が苦しいし、脚絆も暑い。」という言葉を覚えていたが、意外にもその答えを忍者の隠れ里に住んで諒解するようになった。それが冒頭のタイトルである。

伊賀に越してくる前から家庭菜園を勤しんでおり、初夏ともなると短パン裸足で農作業をしていた。当然、伊賀でも爽やかな初夏の夜明けから短パンで農作業していたが、散歩の方が皆一様に「6時過ぎたら、ぶゆうが出るで。気を付けや。」と言う。ぶゆう?=武勇?おお、まさか忍びの隠れ里なので人目につく状況で武勇を誇ると手痛いしっぺ返しを喰らうから気をつけろ、ということか?…さすが隠れ里、秘すべし秘すべし。と一人勝手に合点して数日。

足全体がほんのり赤く腫れ、異様に痒い、ずっと痒い。皮を掻き破ってもまだ痒い。いつまでも3週間程も痒い。そこでふと思い出し「ぶゆう=ブユ」であることに気が付く。

ブユは山奥の清流に住み、爽やかな初夏から早朝・夕方に出る。村の中心を清流が流れ、この辺りは隣村もあわせてブユは生活と共にある。村のお年寄りは昔は足元を厳しく脚絆で縛り、隣村のおばあさんは覆面で農作業をしていたと仰った(顔をさされると醜い刺され痕が残る)。…おや、これは忍者装束そのものではないか。忍者装束は伊賀の野良着だと聞いたことがあるが納得。

あんな痒い思いをするなら息苦しい方がよっぽどまし。長時間の農作業で自然、長時間の鼻呼吸で激しい労働をこなすことになる。

川上先生に「忍者の初歩で呼吸法がありますが、忍者の里の農民は既に普段から呼吸法の素養があるのではないでしょうか」と伺うと「そうだろう。」との御返事。

…このような感じでその場に住み、七転八倒体験し、ふと腑に落ちたフレーズが「清流が爽やかだから忍者装束」という言葉。

今後も、このように頭だけではなく、生活することでふと腹の底から自然と納得できるような経験を積み重ねていけたら、と思います。