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(エッセイ)翻刻の大事 (吉丸雄哉)
2019年02月05日
今期の大学院の授業は忍術書を部分部分に分けて読んでレポートを毎回作ってもらう授業をやっていた。『正忍記』と『万川集海』を読んで、『忍秘伝』に入ったのだが、前のふたつが中島篤巳先生による翻刻が存在するのに『忍秘伝』はまったく翻刻が存在しないのである。
『忍秘伝』はほとんど楷書にカタカナだから普段通りに読んでレポートを作ってもよかったのだが、全部で46丁とそれほど長くもないので、『忍秘伝』の沖森文庫本を分担して翻字しながら読んでみることにした。ひとりでやるのではなく、4人でやるので凡例を作って翻刻方針をはっきりさせてからとりかかったものの、やってみると当初の凡例ではうまくいかないものや決め忘れたところがあって、凡例にさまざまな改変を加えることになった。
他人様の翻刻を見ると誤刻がよく目につくものだが、自分たちがやってみるとまず句読点すらちゃんと振ることができず、簡単そうな漢字でも読み間違いばかり。学力のなさが反映して悲惨な状況だが、翻刻はみんなでわいわい意見を出しながら間違いを修正していったほうが、最初からひとりで絶対に間違えられないというプレッシャーのなかでやるよりはずっとよいだろう。
『忍秘伝』をしっかり読んでみるとなぜこのような重要な忍術書の翻刻がなかったか不思議でしょうがない。大学院教育の成果報告をかねてなるべく早いうちに『忍秘伝』の翻刻をこのブログにアップロードしようと思うが、正確な研究はまず原本の正確な翻刻から始まるのであり、ここでいい加減な翻刻を上げてそれが流通すると、むしろ害毒をまき散らしていると言われてしまう。きっちり、みんなで読み直してから載せていきたい。(吉丸記)