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(エッセイ)山下泰平の「まいぼこ」(吉丸雄哉)
2019年07月25日
私は近世文学を専門とするが、忍者研究のため明治以降の文学作品も読まねばならなくなった。しかしながら、明治以降の大衆向け娯楽作品は膨大で読書が遅々として進まない。
そういう状況で山下泰平『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がぼこぼこにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』(柏書房、2019・5)が刊行されたので楽しく読ませてもらった。長すぎるタイトルのため、どうやら世間では「まいぼこ」という愛称がついているらしい。山下泰平という人がジブリの月刊誌「熱風」にどうやら明治の講談速記本のことを書いているらしいとは、去年ある人に教えてもらっていたのだが、地方にいては閲覧しにくく、重要度がわからないのでそのままになっていたが、ようやく内容を知ることができた。
忍者関係の本もたくさん載っていて第4章「地獄に落ちそうな勇士ども」、第9章「忍者がやりたい放題するまで」、第10章「恐るべき子供豪傑たち」などに忍者の話がたくさん出てくる。描かれている忍者像は面白くて、忍者ファンは絶対に買って損はしないだろう。本当はもっと早く紹介したかったのだが、ブログも止まっていたのでずいぶん後回しになってしまった。
私はかろうじて立川文庫など大正期の娯楽小説で論文を書いたことがあるので思うのだが、作中では山下が非常に面白い本のように明治の娯楽小説を紹介しているものの、だいたいの本は現代の小説に比べて拙くて、て山下と同じように面白いと思うにはコツがいるはずである。この分野は小説研究ではブルーオーシャンなのかもしれないが、誰でもできるものではないだろう。山下泰平の引き続きの活躍と、「まいぼこ」に影響を受けて山下泰平と同様の優れた娯楽小説読みが登場することを期待したい。(吉丸記)