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(エッセイ)内閣文庫『万川集海』のデジタル公開(吉丸雄哉)
2020年07月17日
今年度の大学院における忍者学の授業はオンラインで行っている。受講の大学院生のうち、埼玉県と神奈川県がひとりずつ、愛知県が二人、三重県(寮にいる留学生)がひとり、なのでオンラインでむしろ助かっている模様だ。他のオンライン授業にもいえるのだが、Zoomでは画面が「共有」しやすく、同じ画面をみながら発表してもらったり、指導ができるのは便利である。この授業に限らず、対面授業に復帰してもパソコンは学生に持ってきてもらおうと思っている。
現況でネットでは中味のわからない本が多く、手に取って確認できないのはつらいことだが、近年影印のデジタル公開が増えて簡単に見られるようになったのはありがたい。本日の授業で、ある院生が忍術書に引用されている漢籍の報告をした。珍しい本が出てきてうまく所在がわからないという。そこで、まず「全国漢籍データベース」をつかって所在を確認した。画面共有できるので教えやすい。それによると国立国会図書館にもあることがわかったので、国立国会図書館のNDL-OPACで調べて見る。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されていればよかったが、マイクロフィルムまでしかないらしい。「全国漢籍データベース」に内閣文庫が載っていたので、デジタル公開されていないか調べたが、これも残念ながら画像公開の対象ではなかった。関東住まいの学生なので「とりあえず国立国会図書館まで見に行ってマイクロフィルムから紙焼きを作ってもらうのがいいか」と話していたところ、中国人の留学生が百度を辿って、中国で影印を公開されているサイトを探してきてくれた。これでまったく画面のうえで調査が済んでしまった。こういうのも研究の国際化と言っていいだろうか。今期はこのような感じで、みんなの力で研究が進展していくことが多くて気持ちがよい。
一段落したところで「内閣文庫は画像をたくさん公開してくれるようになったけど『万川集海』はまだ公開していないのだよね」と言ったら、ある学生が「先週見たら公開されていました」という。
さっそく
https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/default
に「万川集海」と入力し、無事画像が確認できた。
感動したのは、カラーで撮影されていることである。内閣文庫本の影印は忍者研究を始めて間もなくの8年前に私が手に入れたが、それは白黒であった。カラーなので朱になっている部分はもちろん、いろいろな彩色が施されているのがわかる。学生と私と石田善人による復刻版をそれぞれ持っていたので取り出して見比べると、復刻版では彩色が欠けている箇所があったり、色味が全然違うものがある。これは研究において大きなことで、折りを見てじっくり見直す必要が生じた。
『万川集海』は2015年に中島篤巳の編集で国書刊行会から現代語訳・読み下し・影印がセットになった本が刊行され、税抜6400円で影印が手に入るので非常に便利になったが、カラー版がこうして簡単に見られるとはありがたい。内閣文庫さまさまである。
2020年度に伊賀市や地元の団体が所蔵する史料についてデジタル化が開始されている。伊賀市上野図書館も入っていて、伊賀流忍者博物館沖森文庫の『万川集海』と伊賀市上野図書館蔵の『万川集海』がそれぞれオンラインで公開されると聞いている。内閣文庫をはじめ、『万川集海』の諸本が公開されることにより、『万川集海』の研究が大きく進むことを楽しみにしている。(吉丸記)