国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
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(学生通信)映画レビュー⑫「忍びの国」<2017年、監督:中村義洋>(院生 郷原匠)

2020年09月02日

 本日紹介する映画は、2017年に公開された「忍びの国」という映画です。和田竜さんによって書かれた『忍びの国』(新潮社、初版2008年)という小説が原作です。「アヒルと鴨のコインロッカー」(2007年)、「決算!忠臣蔵」(2019年)等の作品で有名な、中村義洋さんが監督を務め、主人公の無門役を、国民的アイドル「嵐」のメンバーである大野智さん、無門の妻お国役を、大人気女優石原さとみさんが演じたことで話題になりました。他にも、伊勢谷友介さんや國村隼さんなど、数多くの有名俳優陣を起用しており、非常に豪華な作品となっています。

 プライムビデオには本作品がなかったので、今回は近くのTSUTAYAでDVDを借りて鑑賞しました。ネット上のレビューは、「面白い!」「アクションが最高」といったコメントが存在する中、意外にも「共感できない」「後味が悪い」「これは酷い」などの酷評レビューがたくさん存在していました。それら酷評レビューの大半は、原作との違いに対して不満を寄せるものが多く、おそらく原作が名著である分、それらの要素を映画に上手く活かしきれなかったことに対する怒りと悲しみが込められているのだと思います。漫画やアニメを実写化して失敗するパターンとよく似ています。

 時は戦国時代、伊賀国では、部族間で日々無駄ともいえる争いを繰り広げていました。その中でも伊賀最強の下忍として名高い無門(大野智)は、任務として下山次郎兵衛(満島真之介)を殺します。その兄、下山平兵衛(鈴木亮平)は弟の死を悲しみますが、父や周りの仲間達は何事もなかったかのように扱い、平兵衛はそんな無慈悲な伊賀の人々を恨むようになります。一方、お隣の伊勢国では、織田信長の次男である信雄(知念侑李)が北畠具教(國村隼)を強引な手段で殺害し、伊勢国の実権を奪いました。伊勢国を統治するようになった信雄は、伊賀国も自らの手中に収めたいと考え、家臣の日置大膳(伊勢谷友介)や長野左京亮(マキタスポーツ)、伊勢国に寝返った下山平兵衛とともに、伊賀攻めへの準備を開始しますが・・・。本作品はいわゆる「天正伊賀の乱」を描いた作品となっています。特に、伊賀忍者が織田信雄軍に勝利した「第一次天正伊賀の乱」を物語の中心に据えており、その戦闘シーンでは、伊賀忍者のアクロバティックな動きを存分に堪能することができます。

 原作と異なるところは、柘植三郎左衛門(信雄の家臣で、元伊賀の忍び)が登場しないこと、物語のラストに無門が伊賀から救い出す「鉄」という少年が登場せず、代わりに「ねずみ」という幼い少年が登場することなど、登場人物が一部改変されていることが挙げられます。また、お国が日置大膳に斬り捨てられそうになった所を無門が助けるというシーンもありませんでした。普段尻に敷かれている無門がお国に対してかっこいい所を見せるというシーンですが、この描写が抜け落ちていたことで、映画では終始、女房関白の状態になっています。私自身、このシーンはぜひ映画に取り入れてほしかったと思っています。他にも原作との差は多々ありますので、ぜひその違いを楽しんで頂けたらと思います。

 印象に残ったところは、映画の後半部分における無門と平山平兵衛の戦闘シーンです。ここでは二人の心情変化の様子が活き活きと伝わってきます。これまでお金しか興味がなく、人を殺すことに何の抵抗感がなかった無門が、平兵衛との戦闘の中で、彼の弟に対する熱い思いに胸を打たれ、無門に初めて人の心・慈悲心というものが生まれます。一方で平兵衛は、無門との戦闘を通じて、無門や伊賀の人々を許す気持ちになります。今まで憎んでいた伊賀の人々は、生きるために命懸けで任務に励み、かつては自分もその一人だったということを再認識します。非常に胸打たれるシーンであり、この点においては、演技力に定評のある有名俳優陣を起用したことは大正解だと感じました。

 これまで2000年以降に作られた、様々な忍者映画を観てきましたが、その中で一番上手くできた映画だと感じました。映画だけ観ても面白いですが、原作の小説を読んでから観ると、ストーリーの違いを体験することができて非常に面白いのでオススメです。

 以上で今回のレビューを終わります。次回は「GOEMON」(2009年、監督:紀里谷和明)をレビューしたいと思います!(院生 郷原記)