国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)ユリイカ偽書の世界(吉丸雄哉)

2020年12月05日

 ユリイカ2020年12月号「特集 偽書の世界」が面白い( http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3508 )。373頁もあって厚いだけでなく、内容も読みごたえがある。対談のほか日本文学や日本史に関係する記事は楽しみにしていたが、日本以外のことを書いた記事も面白い。とりあえず、偽書特集だけに、騙されたと思って手に取ってみることをお勧めする。
 忍者関係でいえば、呉座勇一「歴史学会と偽書 『甲陽軍鑑』を事例に」は『甲陽軍鑑』の真偽論争を俎上に「真書か偽書かという議論は入り口にすぎず、「真書だ」「偽書だ」と結論を出して満足する態度は、手段を目的と錯覚したものと言わざるを得ない。本当の歴史研究は、その先にあるのだ」ということばで締めくくっている。『甲陽軍鑑』の活用例として平山優の最近の忍者研究が引かれている。
 小峯和明「予言を読む」では『太平記』と『太平記評判秘伝理尽鈔』が比較されているが、後者は楠流の兵学や忍術に影響を与えていると私が注目しているものである。
 梅田径「秘伝の行く末」は歌学秘伝を扱っているが、あり方や考え方が忍術秘伝を考えるのに参考になる。吉田唯「神代文字の時空間」は神代文字研究そのものの難しさ、「血なまぐささ」を教えてくれる。「神代文字」で書かれた忍術書もあるのでそういったものを扱う手がかりになりそう。
 忍者から離れても、一戸渉「「炎上」するえどの言説空間」と越野優子「『源氏物語』と異本」は文学方面で面白い。
 まだ、読んでいる途中なのだが、全部読み終わっても私の専門分野から遠い記事は正確に評価できないので、とりあえずわかる記事について感想を述べてみた。
 忍者研究に携わって国文学研究よりも多くの「偽書」に接するようになった。そして、単なる真贋をこえて、研究につかっていること現況から、私にとって今回のユリイカは非常に味わい深い。(吉丸記)