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(学生通信)映画レビュー54「新・忍びの者」<1963年、監督:森一生>(院生 郷原匠)
2021年12月21日
本日紹介する映画は、1963年に公開された「新・忍びの者」という映画です。映画「忍びの者」シリーズ第3作目であり、前回ご紹介した「続・忍びの者」の続編です。前回まで山本薩夫氏が監督を務めていましたが、本作品では、森一生氏が務めています。森氏は、他にも「続・座頭市物語」(1962年)や「座頭市御用旅」(1972年)など、座頭市関係の作品を多く撮られています。
プライムビデオの平均評価は、★5中、★4つ半と、ほぼ満点の評価でした。レビューには「元祖忍者」「豪華重厚深遠」といった高評価のものが多くありましたが、一部「ガックリした」「ダメ」といった酷評もありました。「忍びの者」(1962年)、「続・忍びの者」(1963年)に続いて評価が高いことは、本当にすごいことだと思います。
豊臣秀吉(東野英治郎)暗殺に失敗した石川五右衛門(市川雷蔵)は、釜煎りの刑に処されましたが、徳川家康(三島雅夫)の命を受けた、服部半蔵(伊達三郎)によって助けられます。秀吉は五右衛門を殺したものと思い込んでいました。その頃、秀吉の側室・淀君(若尾文子)が秀頼を生みます。秀吉は養子の秀次(成田純一郎)をよそに、秀頼を正嗣とします。五右衛門はこの機を狙い、淀君を襲って秀頼を奪おうと考えます。また秀吉は、天下統一を成し遂げた勢いで、朝鮮出兵を企みます。秀吉も自ら朝鮮に出兵し、その間は秀次が政務を執ることになりました。五右衛門はこれを狙って、聚楽第に保管された大金を奪い、秀次を窮地に陥れます。秀次の老臣である木村常陸介(嵐三右衛門)は、秀次を助けるために、五右衛門に対して秀吉暗殺を依頼します。五右衛門は機をうかがって秀吉を再度暗殺しようと試みるのですが・・・。以上、ストーリーの前半をご紹介しました。
映画「忍びの者」シリーズは、1960年11月から1962年5月まで『赤旗』という雑誌に連載された、村山知義『忍びの者』という小説を原作としています。権力者に翻弄される下忍達の悲哀を描いていることから、「資本家に搾取される労働者」を暗示しているとして、当時の左翼的思想に大きな影響を与えました。
本作品は、前回ご紹介した「続・忍びの者」(1963年、監督:山本薩夫)の続編であり、秀吉が天下統一してから亡くなるまでの話を描いています。主人公は前作、前々作と同様に石川五右衛門です。五右衛門は前作において、妻のマキを紀州攻めによって殺されており、秀吉への復讐に燃えていました。一度は聚楽第に忍び込むものの、捕らえられて釜煎りの刑に処せられてしまいます。しかしそれを服部半蔵が救出したことで、生き延びたという設定になっています。これについて不満を言う方も見られましたが、私は特に気にしておりません。
ちなみに「忍びの者」(1962年)、「続・忍びの者」(1963年)、「新・忍びの者」(1963年)、全てにおいて「石川五右衛門」が主人公になっています。現在でも石川五右衛門=忍者としてイメージする方は多いですが、本当に実在したのかどうかは諸説あります。『賊禁秘誠談』という書には、石川五右衛門は伊賀忍者の百地三太夫によって忍術を学んだ大盗賊であり、豊臣秀吉の寝所に忍び込んで千鳥の香炉を盗んでいます。以降、読本や合巻、歌舞伎にも頻繁に取り上げられ、様々な忍術が生まれてきました。
映画の中では3作全て、石川五右衛門は摩訶不思議な忍術を披露することはなく、専ら陽忍術と陰忍術を駆使して相手に近づきます。前者では、商人や芸能民に化けて情報収集を行います。後者では、石垣や堀を越えて城に忍び込み、天井から眠り粉や毒を撒いて相手を仕留めます。日本史上に存在したであろう忍者を、細部までリアルに描いていることで、他の忍者映画とは一線を画す作品となっています。
何回も申し上げていますが、全作において、「権力者に翻弄される忍び達の悲哀」というテーマで描かれています。特に本作品では、五右衛門だけでなく、秀吉に翻弄される秀次や諸大名の苦悩もリアルに描いていることで、「搾取する者と搾取される者の関係」をより深く感じ取ることができます。この忍び・戦国武将達のリアルな苦悩を多くの方に堪能して頂きたいです。
以上で今回のレビューを終わります。次回は「忍びの者 霧隠才蔵」(1964年、監督:田中徳三)をレビューしたいと思います!(院生 郷原記)