国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
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(エッセイ)宮崎惇『レインジャー忍法 ―冒険のヒーローになれる』について(吉丸雄哉)

2022年02月07日

 子ども時分に従兄弟の家で読んだ横山光輝『伊賀の影丸』に私は大きな影響を受けている。それを読んで、自分も忍者になりたいと思ったのだろう。親にねだって、宮崎惇『レインジャー忍法 ―冒険のヒーローになれる』(廣済堂出版、1979.8)を買ってもらった。この本は長く実家にあったが、親が終活するから必要な本を持って行ってくれと言われた三年前に実家から引き上げてきた。

「豆たぬきの本」というシリーズの一冊である。「豆たぬきの本」は、1978年10月発行の東京12チャンネル編『三波伸介の凸凹大学校』から1990年2月発行の田埜哲文『サバイバルゲーム大全集』まで119冊が国立国会図書館に収められている。笑話集もあればマメ知識集もあり、占いに予言やUFOといった怪奇性のつよいものもある。暗記術、探偵術、喧嘩や将棋の指南書など幅広い。

 判型は縦12.7×横9.2センチと小さい。ページ数は235頁で厚くもなく薄くもない。
 私の本は表紙が失われてしまったが、ネットで調べるとロープをつかって崖を下りている洋装の若者の絵が描かれており、「冒険のヒーローになれる」との文字が入っている。崖の上にはコンドルのような鳥が飛んでいて、「忍法」よりも「レインジャー」に重きが置かれていたようである。

 著者の宮崎惇(みやざき じゅん)は1965~1981年にSFと時代劇の両方で活躍した作家である。忍者関係では『秘録戦国忍者伝』(桃園書房、1974)、小説では『忍法新陰流』(双葉社、1965)や『甲賀忍法江戸控』(双葉社、1976)などがある。48歳でガンで亡くなっているそうで、これは現在の私と同い年。1957年生まれなので、存命なら2012年から忍者研究を始めた私と接点があったかもしれない。『真田忍者伝 : 宮崎惇遺稿集』(さがらブックス、1996)があって、友人や遺族が追悼文を残している。

目次は
 1、生存術 2、情報術 3、冒険術 4、生存術 5、脱出術
 と5章仕立てになっており、「冒険術」に「強敵相手のケンカ必勝法」(134・135頁)はあるが、武術系のものはまったくない。アウトドア系のサバイバル術の本といってよく、忍法・忍術も伝統的なものは「忍びいろは」や「猫の目時計」ぐらいしか載っていない。しかし、全体的に野山での活動方法を教えているところは、三重大学の忍者忍術学コースの「忍者学実践演習」で川上仁一先生が教えている内容と本質的に似ていると思う。
 その後、私は本を読むか、道場で剣道するかの室内派になってしまい、この本の知識を生かす機会はなかったが、それでも手放したくない一冊である。(吉丸記)