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(エッセイ)忍者手ぬぐいあれこれ(吉丸雄哉)
2022年05月16日
学生時代から手ぬぐい派なのだが、忍者研究をはじめたここ十年ほどは特に忍者に関係した柄の手ぬぐいをよくつかっている。
中部国際空港の「のレン」という店で外国からの観光客の購入を見こしたのだろう忍者テーマの手ぬぐいを買うことが多かったが、ここ二年ほど空港もほとんど利用しないので新規の購入が止まっている。伊賀を巡っているとやはり忍者に関係した手ぬぐいは頻繁に見かけ、そのつど購入しているがどこで購入したのか逐一覚えていない場合が多い。
昨年有松絞に関係した仕事をしたので、有松で購入した手ぬぐい何本かを最近はよくつかっている。忍者に関係のない伝統的な技法の絞りの手ぬぐいである。
嵐山史跡の博物館が令和3年度企画展「実相 忍びの者」展をやったときに「忍」の一字の入った臙脂色の手ぬぐいを購入した。この手ぬぐいは剣道用の面タオルであって、普通の手ぬぐいよりも多少長い。展示を企画なさった学芸員の岩田明広さんが剣道をなさるので、面タオルの長さにしたという。せっかくなので手ぬぐいではなく面タオルとして使用している。
さて、先日『忍者とは何か』を上梓したお祝いに「忍術手習帖」という手ぬぐいを一本頂戴した。
https://www.kamawanu.shop/c/tenugui/classic_tenugui/06609624
手ぬぐいでは有名な「てぬぐいのかまわぬ」という店の商品で、「てぬぐいのかまわぬ」の手ぬぐいは関東にいた頃は私もよく買っていた。
いただいた手ぬぐいには解説が一枚がついており、それによれば
忍者は敵の陣地に忍びこんだり、敵と戦ったり、また逃げたりするときに、さまざまな忍術を使い活躍したといわれています。その忍者の姿を描いたのが、この「忍者手習帖」です。
とあり、上下7つずつの計14ブロックにそれぞれ忍術が書いてある。上段右から「巻物」「忍び入り」「見張り」「鎖鎌」「水蜘蛛」「煙幕」「撒菱」、下段右から「手裏剣」「水遁の術」「分身の術」「隠れ身の術」「たぬき隠れ」「吹き矢」「変わり身の術」である。シルエットだけでそれが伝わるようになっているのがよくできている。端に並んだ手裏剣も種類があって気が利いている。
術ごとに2行程度の説明があり、「巻物」ならば「忍者が肌身離さず持ち歩いた巻物には、忍術の使い方や、地図が記されており、密書を届ける為にも使用された」というように書いている。
面白いのは
表記は全て忍者が使ったとされている忍術ですが、一部小説などのフィクションが現実のものとして伝えられているものもあります。またこれらは毎日厳しい修行を積んだ忍者のみが使える忍術です。真似してけがをしないようにご注意ください。
とあることで、どこまで本気かわからないが姉妹品の「防災手習帳」のように実用性の高いものあるので案外真面目に言っているのかもしれない。
『正忍記』に記される忍びの六具の一つが「三尺手拭」(約90センチの手ぬぐい)である。ちなみに残りは「あみ笠」「かぎ縄」「石筆」「薬」「打竹」(火種入)である。
『正忍記』には、
三尺手拭は鉢巻、ほうつつみ、まし帯、塀のり抔利多し。是を持に常に帯に入るる二重帯といふ。然ども是を当流にはゑりに折入るる也。帷子きるにも折入て常に離すへからず。
とあって、活用しやすく常に持ち歩くべき品とされている。
『忍術伝書 正忍記』(新人物往来社、1996)の中島篤巳の解説では「三尺手拭」は「大きい手拭で、頬かむりや帯に結び付けて登り降りなどに利用した。忍びの三尺手拭は豆科の蘇芳で染められており、丈夫である。水もろ過したという」とある(46頁)。蘇芳はくすんだ赤色である。
三重大学の忍者忍術学講座で山田雄司先生と川上仁一先生と世界各地をまわったので、何度も川上仁一先生が忍びの道具として手ぬぐいの説明をするのを見た。川上先生は三尺手ぬぐいではなく紺色の六尺手ぬぐい(約180センチの手拭い)をつかっていた。聞いたことがある用途は、覆面、首元の保護、水こし、怪我したさいの血止め、端を水に浸して敵をはたいたり木に登るのに使うといったものだった。覆面にするにも、ロープ替わりに使うにも三尺より六尺のほうが便利だろう。紺色に理由があるのか聞いたことがないが、蘇芳を使っているのは見たことがなかった。紺一色の素っ気のないものだが、特別感のないありきたりの日常品を融通するのが忍者らしいように感じる。
手ぬぐいは使っていると傷んできて最終的にダメになってしまう。かといってもったいないからといってしまっておくと、もとが小さいので紛れてわからなくなってしまうのが悩ましい。自分で買ったものなら当然使うのだが、いただいたものでもあるし、これもなにかの忍者資料として使えそうな気がするので大事に持っておくつもりである。(吉丸記)