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(エッセイ)大阪公立大学の?沢コレクションについて(吉丸雄哉)
2022年06月16日
2022年2月20日に「上方・大阪都市文化の研究拠点形成 ―新収 ?沢コレクションを中心に」というオンラインでのイベントが開催された。演芸研究で知られた?沢英明氏所蔵の数万点に及ぶ講談・演劇関係資料が2022年度に大阪公立大学として統合される大阪市立大学・大阪府立大学に寄贈されたことの報告を中心とした内容だった。イベント情報の公開が間近だったようで、私が気づいたときには申し込み期間が過ぎてしまっていたがそれでも60人を超す参加があったらしい。
イベントは気になっていたので、受贈に関わった高橋圭一先生にうかがったところ西田正宏・奥野久美子編『上方・大阪都市文化の研究拠点形成 大学アーカイブの整備と発信』(大阪市立大学都市研究プラザ、2022年3月)というA5版94頁の冊子を御恵送いただいた。若い人に知らせて欲しいとお手紙にあったので、本ブログで紹介することにする。
こういう大学が発行する報告書など手に入れにくいのが常だが、この冊子は大阪市立大学によってリポジトリ公開されている。次のURLをたどってPDFファイルが入手可能である。
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/il/meta_pub/G0000438repository_9784904010495-34-all
もちろん無料なので詳しいことは抜きにしてとにかくダウンロードして読んでもらえばいいだろうが、それためらっている人のために冊子を読んだ感想を記しておこう。
序章と第1~5章までのうち、第1章「大阪公立大学蔵古典籍の資料性」と第5章「大阪市立大学恒藤恭旧蔵資料と明治期島根県明星派歌人とのかかわりについて」以外は?沢コレクションに関係する内容である。
受け入れの経緯が第2章「<?沢コレクション>受入れと整備の報告」にあるが、これがたいへん読ませる内容である。まず受入れに至るまで?沢氏から三度にわたって寄贈の意志が示されている。つまり、二回は撤回されたのである。そういう状態なので試験的な受入れから始まったのだが、書庫の取り壊しと自宅の新築が決まっているので五ヶ月の間に受贈を完了させなければならなかった。そのために総額400万円におよぶ何種かの助成金を確保した。また、大阪市立大学と大阪府立大学の学内者および高橋圭一先生・橋本唯子先生のような学外者を含めた多くのメンバーがこれに携わった。資料は、二階建て離れの書庫、平屋書庫のほか、母屋やガレージにも存在した。それらについて事前調査を行ったうえで、段ボール667箱の資料を運び出したが、搬出後も整理のための作業が尽きない。
全体的に面白い冊子だが、この章が一番興味深かった。なにか資料の寄贈や受贈を考えている人は絶対に読んだほうがよいだろう。
資料に関しては整理が続いている状態で図書リストが完成し、一般利用できるようになるのはずいぶん先だろうが、これによって演芸研究は大きく進展するに違いない。
第3章「?沢英明氏の人と仕事」では全19点の書籍が紹介されている。貴重な研究成果が多々含まれるがすべて私家版のため入手はもとより閲覧も難しい本が多い。受贈者の責任外だろうが、閲覧しやすいようになればありがたい。
なにはともあれ、今回受贈された?沢コレクションは2025年度開設の大阪公立大学森ノ宮キャンパスの目玉のひとつになるのではと思っている。(吉丸記)