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(学生通信)『忍者と玉秀斎 その6』(院生 四代目・玉田玉秀斎)
2022年07月22日
お客様が殆どいない講談会。その中のお一人が外国人。
お見送りの時に思わずその方に
「どちらの方ですか?」
と尋ねると、「隣の国」と言う答え。
見た目はアジア系ではない。
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、香港(当時はイギリス統治下)と次々に尋ねますが、返ってくるのは「違う」というお答えのみ。
「うーん」と更に頭をひねっていると、そのお方がニヤッと笑って「ロシアです」と教えて下さいました。
「えっ、ロシアの方ですか?凄い。でも、なんで?なんで、講談会にお越しになったんですか?」
余りの驚きに、お客様に対して「なぜ来たのだ」と言うあるまじき質問をしてしまったのです。
その方はニコっと笑った後、こちらをジッと見つめ、ゆっくりとした口調で
「秘密です」
と言い残しエレベーターに乗り込もうとした。
「えっ、秘密ってどういうことですか」
その背中に向かって質問を投げかけましたが、その方は、思い出したように名刺を下さったのです。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
その名刺に目を落とすと「三重大学」「忍者」「研究員」という文字が並んでいた。
「えっ、三重からお越しになられたんですか?今から三重に帰るんですか?」
「はい」
「この講談会の為だけにお越しになられたんですか?」
さらに矢継ぎ早に質問をぶつけた。
「はい。この為に来ました。では、また」
エレベーターの扉が閉まった。
「三重大学で忍者を研究している方が、この講談会の為だけに三重から・・・なぜ?」
その日の演目は「三代目・玉田玉秀斎」だったのです。
先代・玉秀斎とその外国人を繋ぐモノ。それは忍者しかない。
先代・玉秀斎は途轍もない事をしたのかもしれない。
それが朧気ながらわかってきた。(院生 四代目・玉田玉秀斎記)