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(エッセイ)忍者の印の結び方警察(吉丸雄哉)
2022年11月10日
2022年11月20日よりカタールで開催される2022FIFAワールドカップに出場する日本代表に湘南ベルマーレFW町野修斗選手が招集された。怪我をしてしまった中山雄太選手は残念だが、町野選手には頑張って欲しい。
町野選手といえば、出身の伊賀市にちなんだ忍者ポーズが有名である。これに関する秘話を日刊スポーツが次のように伝えている。
だいたい何年か経つとリンク切れしてしまうので、簡単に内容を書いておくと、町野選手は昨年のオフ(2021年春だろう)に伊賀上野城で手裏剣体験をして、ふざけて印を結んだところ、長髪の従業員に右手が上だと怒られたというのである。その後、毎日1時間、風呂上がりに練習して半年で取得したという。
町野選手が、
「手裏剣体験をやって、ふざけて忍者ポーズをやって、右手を上にしていたら、めちゃくちゃ怒られた。その人が師匠になりました」。大真面目に言った。
とあるのは気になるところで、いくらなんでも伊賀流忍者博物館で働く従業員がお客を叱るようには思えず、実際には誇張があると思いたいが、昨今世間では印の結び方に厳しくSNSなどで右手上に結んでいる人に対して、間違いであると指摘する人を散見するので、あながち嘘でもなく、「本当は左手が上なんですけどね」ぐらい言われたのかもしれない。
九字とは葛洪『抱朴子』内篇四の「臨兵闘者皆陳列前行」の九文字に由来する。「列前行」というもとの字と異なり、「臨、兵、闘、者、皆、陣(陳)、列、在、前」の呪文として日本には伝わっている。魔除けや護身のための呪文で、魔術的効果はもとよりこれを行うことで気持ちが落ち着く効果があるという。
写真の「切紙九字之大事」(1823、架蔵)のように手指で形を作る印が呪文に対応している。
このうち、列の智拳印が忍術の印として用いられるようになったのだろう。今の世間でよく見る、左手を上にする印では、右手を刀、左手が鞘なので、左が上だと俗に言われるが、原形の智拳印だと右手が上で、指も立っていない。
創作ではざっとした印象では左上が多い気がするが、右が上のものも珍しくない。
たとえば大正11年(1922)の「忍術競双六」(架蔵)では右上のほうが多い。
智拳印をもとにしない印を結んでいる場合もあって、読本の梅菊翁『重扇五十三駅』(1841。写真は関西大学図書館 中村幸彦文庫本 DOI:10.20730/100052497 )では、九字の「皆」にあたる外縛印で術を発揮している。
とある忍術実践者が、「九字の印はそれをすることで術者の気持ちが落ち着くことが最大の目的なので右が上、左が上とかどちらが上でも、本人の気持ちが落ち着くならどちらでも問題ない」と言っていた。私にとって忍者の魅力はそういった融通無碍なところである。
とちょっと水を差す感じになってしまったが、ロンドン五輪のスペイン戦で得点を決めた永井謙佑選手が海外で忍者と評されていたように、町野選手も忍者ポーズをきめて、忍者と評されることを願っている。(吉丸記)
※この記事は「刀印剣印と忍者の印」に続きます。