国際忍者研究センター

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(学生通信)映画レビュー⑦「忍術伝 Ninja Star」<2009年、監督:中田信一郎>(院生 郷原匠)

2020年07月22日

 本日紹介する映画は、2009年に公開された「忍術伝 Ninja Star」という映画です。監督は中田信一郎さんという方です。「横浜ばっくれ隊」(1994年)や「闇金リアルゲーム」(2017年)といった作品を撮られているそうですが、まだ一本も見たことがありません。過去の作品を見る限り、今回が初めての忍者映画でしょう。

 プライムビデオによる平均評価は、★5中、★2で、評価は低めです。レビューも3件ととても少なく、「女優さんのセリフが棒読み」「演技、忍術すべてイマイチ」などの酷評ばかりで残念な印象を受けました。レビューが少ない原因は、この映画があまり知られておらず多くの人に見られていないからでしょう。今後、レビューの増加を祈るばかりです。

 時は戦国、徳川家康の腹心である土井勝利によって焼き討ちにされた風魔一族の生き残り、十蔵(本宮泰風)がその復讐のために旅に出かけるといった内容です。途中、伊賀・甲賀・真田忍者、柳生新陰流の猛者と戦うのですが、どれが伊賀で、どれが真田なのかはっきりしません。また、十蔵には弟子であり恋人でもあるおエン(柳沢真理)がいました。物語の途中、回想シーンとして二人で仲良く忍者修行をする様子やキスシーンが流れます。そして物語の終盤では、そのおエンが重要人物として十蔵の目の前に現れます・・・。以上が物語の大筋です。有名な伊賀・甲賀忍者ではなく、風魔忍者を主人公にしたのは、個性が出て非常に興味深く感じました。

 今回の作品ですが、時代劇を見ているかのような感覚を受けます。登場人物が古い言葉を使って話し、着ている服の種類も和服で、あまりフィクション要素を全面的に出していません。忍者映画というと黒装束や甲冑を身にまとい、手裏剣をバンバン投げて敵を倒すといった印象を持つ方が多くいらっしゃるかと思いますが、この映画では全くそうではありません。戦闘シーンでは、一部、「首切り針金」?といった謎の武器を主人公が使いますが、大体は剣を使って相手と戦います。とても地味なアクションシーンではありますが、こういった類の忍者映画は年々減りつつあるので、私は貴重な作品であると思っています。

 この映画の一番の問題点は、物語が中途半端なオチで終わってしまうことです。実際に映画を見て頂ければ分かるのですが、多くの方が「えっ!続きは!?」と思われることでしょう。これまでに高品質の映画を見てきた方にとっては、怒りすら感じるかもしれません。またこの映画には、小沢仁志さんや松田優さんといった著名な俳優も登場するのですが、彼らの役柄の意味がどうも理解できませんでした。悲しいことに、全体的にモヤモヤの印象ばかりが残ってしまいました。

 プライムビデオに、「正統派忍者がその誇りを掛けた最後の忍者道で魅せる忍者の美学を徹底的なまでに浮き彫りにした近代忍者活劇の傑作」と大々的に紹介されていた分、見る前に大きな期待を持ってしまい、その内容が思っていたものと違ったので、現実と理想のギャップに苦しむことになってしまったのだと思います。今後こうした誇大広告はぜひともやめてもらいたいと思います。シンプルに分かりやすく物語の大筋だけを書いてくだされば、純粋な気持ちで映画を楽しめるのでしょう。

 話がそれてしまいましたが、この映画の中で面白かったのは、旅路の途中、川で柳生新陰流の女猛者と戦うシーンです。この女猛者は開始早々いきなり上半身裸になり、下半身はふんどし一丁、それに加えて全身から煙をプシューと吹きながら主人公に襲い掛かかってきます。この意味不明な演出にはさすがに笑ってしまいました。しかしどこか色気があり、映像の画質も粗い分、古いAVを見ているかのような感覚にも陥りました。監督の粋なはからいでしょうが、賛否両論ありそうです。私自身はとても好きな演出で「こんな忍者映画もアリなのかな」と思いました。

 つまるところ、今回の映画に関しては「もうフィクションの忍者は飽きたから、エンターテインメント性をなくしたリアルな感じの忍者を見たい」という人にとってはオススメなのかなと思いました。物語自体も特に起伏もなく淡々と進んでいきますが、映画をゆるりと見る分にはちょうど良いのかもしれません。

 以上で今回のレビューを終わります。次回は「ニンジャVSミュータントゾンビーズ」(2016 年、監督:リロイド・リー・バーネット)をレビューしたいと思います!(院生 郷原記)