国際忍者研究センター

三重大学では、伊賀地域の発展のために、
忍者の歴史や文化を研究し、その成果を発信しています。

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(エッセイ)どうやる家康どうなる家康(吉丸雄哉)

2021年01月24日

 2023年(令和5年)のNHK大河ドラマは『どうする家康』で、松本潤が演じる徳川家康が主人公らしい。これについては、今までの大河ドラマとはまったく違った関心を持っている。私がここ2年間、伊賀忍者活劇体験(忍者LARP)で徳川家康を演じたからである。忍者LARPとは知らない人が多いだろう。LARP(ラープ)とは”ライブ・アクション・ロール・プレイ=Live Action Role Play”の略である。欧米で1990年代から楽しまれているアトラクションで、参加者が物語の主人公になって、会話や戦いを通してストーリーを体感する遊びである。伊賀市で過去に何度か実施しているが、そのなかで「家康救出!」シナリオを2回、合計9公演行っている。本能寺の変のため、伊賀甲賀越で岡崎へ脱出しようとしていた家康が掠われてしまい、それを依頼された参加者が救出するという内容である。参加者は救出の依頼を受けた忍者(ちなみに裏切りも可能)で、運営側がその他の登場人物になる。運営側もそんなに人が集められないので、ひとり何役かやっており、私は雑魚の手下忍者と家康の二役をやっていた。
 要所要所の台詞はルナル・サーガや『からくり隠密影成敗』などの時代小説シリーズで知られる友野詳さんが書いてくださっていて安心できるが、この遊びは参加者の発言や行動に対して役者がアドリブで対応せねばならず、それが悩ましかった。
 友野さんの用意してくださった台詞から想像される家康像は、山岡荘八『徳川家康』の家康に近くて、戦国乱世を終わらせ太平の世を築くことで民に安寧をもたらすことを考える善人である。この家康像は戦国時代への理解が深まるにつれて、「そんなの戦国時代の人間が考えるわけないだろう。バーカ、バーカ」とけなされるようになったのだが、最近は一回りして「意外とマジでそう考えていたのでは」という見方も復活してきたようで面白い。本能寺の変で、家康は満39歳、戦国武将でもあるし、神影流を学んでいた剣の達人でもあった。
 先に演じる覆面をした雑魚忍者はとにかくくずれた感じにした。家康はわかってもらいにくいので、葵紋入りの陣羽織を作って着ることにした。『真田丸』の内野聖陽の家康はなさけない印象を与えていたが、助けたくなる人物に相手にみえるよう、とりあえず常に堂々とふるまうことにした。最初は戸惑っていたものの、人間面白いもので、だんだん大名っぽく振る舞えるようになり、アドリブの台詞も違和感なく吐けるようになった。展開によっては、参加者を剣で少しだけ助けることもあるが、家康が刀を振るうのは見ている人は違和感あるらしいので、剣術を学んでいたことがわかるように「小野派一刀流の腕前を見よ」と切るときに言っている(実際は小野忠明から一刀流を学ぶのはもっとあとだが、一刀流の知名度が高いのと短いと何言っているかわからないので)。なんだかんだで、今は家康役者としてそんなに悪くないのではと思っている。
 参加者によって独自の話が展開していく伊賀忍者活劇体験で家康を演じてみて思うのは、「家康、あんまり好かれていないなあ」ということである。私は江戸文学の研究者なので、江戸幕府にかなり好意的だが、権力がとにかく嫌いな伊賀の人たち(伊賀気質、よーくわかった)に好かれていないのはもちろん、関西の人たちも豊家贔屓らしく家康にわりと冷淡である。見殺しにされそうになったり、裏切られたりするのはよくある。家康が死んだら歴史が変わってしまうので、そのときは影武者だったと名乗るだんどりになっていて、幸い一度もその選択になっていないが、死んでしまうのではと、ヒヤッとすることもある。
 そういうわけで、『どうする家康』で松本潤がどのような性格の家康をどのように演じるのか、そして今の人たちにその徳川家康が受け入れられるのか、たいへん興味がある。