国際忍者研究センター

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(学生通信)映画レビュー㊸「リトル・ニンジャ 市松模様の逆襲」<2018年、監督:ソービョルン・クリストファーセン他>(院生 郷原匠)

2021年07月21日

 映画レビュー㊸「リトル・ニンジャ 市松模様の逆襲」(2018年、監督:ソービョルン・クリストファーセン他)

 本日紹介する映画は、2018年に公開された「リトル・ニンジャ 市松模様の逆襲」というデンマーク制作のアニメ映画です。デンマーク映画については、以前「レゴ・ニンジャゴー ザ・ムービー」(2017年)をレビューさせて頂きましたので、そちらもご覧頂ければと思います。

 プライムビデオの平均評価は、★5中、★5と満点評価ですが、レビューが1件しかないので、あまり信用はできません。感想としては「子供も大人も楽しめる」といった高評価レビューが残されていました。

 デンマークのある町。いじめられっ子のアレックスは、気弱な性格ゆえ、義理の兄ショーンや同じ学校の同級生グレンにいじめられていました。そんなアレックスは、学校のマドンナであるジェシカに密かに想いを寄せていました。ある日アレックスは、誕生日に叔父から「市松模様の忍者人形」をもらいます。何の変哲もない人形に飽き飽きしていたアレックスでしたが、ある時、急にその人形が動き出します。なんとその人形には天正伊賀の乱で生き残った忍者「タイコウ・ナカムラ」の魂が入っていたのです。忍者人形は自らの目的遂行と引き換えに、アレックスを強く成長させることを誓います。いじめっ子グレンと決闘するため、ジェシカに想いを伝えるため、アレックスは忍者人形と日々修行を重ねます。徐々に自信がついてきたアレックスに、忍者人形は自らの目的を打ち明かします。それは、自分を作ったタイの工場の経営者、フィリップ・ペパーミントへ復讐するというものでした。ペパーミントはタイの工場で過酷な児童労働を強制しており、多くの児童が危険にさらされていたのです・・・。以上ストーリーの前半をご紹介しました。

 私自身この作品を見る前は、子供向けのゆるいアニメ映画と見くびっていました。しかしその予想は大きく外れました。ストーリーの大筋は、「主人公が困難な状況を克服して成長を遂げる」という単純明快なものですが、その裏には、「児童労働」「工場奴隷」「家庭問題」「薬物問題」といった現代社会の問題を提起しているのです。子ども向けのアニメに見せかけて、実は大人でも十分に考えさせられるといった、一種ピクサー作品のような仕上がりになっています。これには本当に驚きました。本作品のような深みのある忍者映画を鑑賞したのは初めてだったので、強く印象に残りました。今まで見た忍者映画のベスト1位になっています。

 個人的に驚いたのは、天正伊賀の乱の生き残り忍者「タイコウ・ナカムラ」(架空。豊臣秀吉にちなんだ名前か?タイコウは太閤。ナカムラは秀吉の出生地である名古屋市中村区か)の魂が忍者人形に込められているという設定です。天正伊賀の乱は、織田軍が2度にわたって伊賀国を攻めた日本史上の有名な出来事で、1回目は伊賀忍びが勝利しましたが、2回目は織田軍が伊賀国を壊滅的に破壊しました。おそらく本作品は、第2次天正伊賀の乱で生き残った忍者をモチーフに描いているのだと思います。日本から遠く離れたデンマークで天正伊賀の乱が知られていることに、日本人として驚きとともに嬉しさを感じました。

 ちなみに最近、和田裕弘『天正伊賀の乱』(中公新書、2021年)という本が出版されました。日本でも世界でも「~の乱」はブームとなっているのでしょうか。本書を読んでから今回の映画を鑑賞することで、より味わい深い作品になるかもしれません。
 
 続編も公開されるようで、日本でも早く上映してほしいです。デンマーク制作の忍者映画はこれからも盛り上がり続けることでしょう。子どもから大人まで楽しめる本作品を、より多くの方に見て頂きたいです。

 以上で今回のレビューを終わります。次回は「バットマンVSミュータント・タートルズ」(2019年、監督:ジェイク・カストリ―ナ)をレビューしたいと思います! (院生 郷原記)