国際忍者研究センター

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(学生通信)映画レビュー59「新書・忍びの者」<1966年、監督:池広一夫>(院生 郷原匠)

2022年02月11日

 本日紹介する映画は、1966年に公開された「新書・忍びの者」という映画です。映画「忍びの者」シリーズ第8作目・最終作品です。監督は、前回ご紹介した「忍びの者 続・霧隠才蔵」(1964年)の池広一夫氏です。池広氏は、他に「眠狂四郎 女妖剣」(1964年)や「座頭市千両首」(1964年)といった作品を撮られています。

 プライムビデオの平均評価は、★5中、★4と、なかなか高い評価でした。レビューは2件しかなく、「忍びの者8作目」「また1作目の主人公かよ」といったように、良いのか悪いのかよく分からないものばかりでした。ちなみに本作の主人公は、1作目の主人公(石川五右衛門)とは別人です。

 伊賀の霞小次郎(市川雷蔵)は、幼い頃、3人の忍者に父(須賀不二男)を殺されるという悲惨な経験をしており、小次郎はその3人に復讐すべく、甲斐の武田信玄(石山健二郎)に仕える忍者・黒戸左太夫(伊藤雄之助)の門下に入ります。左太夫は、小次郎を立派な忍者に育てるために厳しく指導します。一方の小次郎は、茜(大楠道代)という娘の好意を受けながら、厳しい修行に耐えていました。その頃、武田信玄は、若き武将・徳川家康(内藤武敏)との戦いに備えていました。しかし水の供給が追い付かなくなってしまい、信玄は、配下の忍者達に地下水を掘るよう命じます。しかし不運なことに、事故によって多数の忍者達が犠牲となりました。左太夫と小次郎は、非道な信玄に対して恨みを持つようになり、信玄への復讐を誓います。その裏で、小次郎は父を殺した忍者2人に復讐を遂げました。しかしながらあと1人の行方が分からないのです。小次郎は苦労の末、その1人が誰かを特定するのですが、そこには驚愕の事実が待ち受けていたのです・・・。以上ストーリーの前半をご紹介しました。

 本作は、これまでの作品とは一風変わったものとなっています。主人公は「霞小次郎」という架空の忍者で、伊賀出身のスッパ(武田信玄に仕える忍者)という設定です。ストーリー的には、シリーズ1作目「忍びの者」(1962年、監督:山本薩夫)と、どことなく似ている部分があり、ラストシーンは全く同じものでした。シリーズのラストを飾るに相応しい作品であり、観終わった後はとてもスッキリした気分になりました。

 時代は天文年間(1532年~1555年)ということで、これまでのシリーズの中で一番古い時代設定となっています。「忍びの者」シリーズを主人公が生きた時代順に並べると、「新書・忍びの者」(1966年)→「忍びの者」(1962年)→「続・忍びの者」(1963年)→「新・忍びの者」(1963年)→「忍びの者 霧隠才蔵」(1964年)→「忍びの者 続・霧隠才蔵」(1964年)→「忍びの者 新・霧隠才蔵」(1966年)→「忍びの者 伊賀屋敷」(1965年)となります。この順番で見ても面白いかもしれません。

 そして全ての作品において、市川雷蔵氏が主人公を演じています。高い演技力と甘いマスクの持ち主として、1950~60年代の大スターでありましたが、惜しくも病気のため若くして亡くなってしまいました。現在においても、数々の名作時代劇作品に出演した伝説の俳優として映画史にその名を刻んでいます。

 この「忍びの者」シリーズによって、「市川雷蔵=忍者」として認知されるようになりました。現在、人気漫画『ONE PIECE』において、「霧の雷ぞう」という忍者が登場していますが、これはおそらく市川雷蔵氏をモチーフにしているものと思われます。

 また全作を通して、①権力者に翻弄される忍者の悲哀、②至極リアルな忍者像、の2点を根底として制作されたことが分かりました。作品によって百地三太夫、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄と権力者が変化しますが、どの権力者も悪逆非道に描かれ、それらを打倒する忍者は、まさに正義のヒーローとなっています。巷にあふれる多くの忍者映画は「超人的なアクションを使って敵と戦う」「現実的にはあり得ない忍術を駆使して相手を倒す」といった設定ばかりですが、この「忍びの者」シリーズは全く逆であり、陽忍・陰忍のリアルさを追求し、むしろ地味な忍術を駆使して相手を追い詰めていました。これは本当に印象的でした。

 私自身、「忍びの者」シリーズを鑑賞する中で「良い忍者映画とは何か」を深く考えさせられました。時代によって忍者映画に求められるものは違うものの、「映画とは、社会に対して何かを訴えかけるもの」という本質部分は、絶対に忘れてはならないと思いました。「忍びの者」シリーズは、このような本質を深くまで追究していたこそ、全ての作品が名作と位置付けられるようになったのでしょう。今後も多くの忍者作品が世に現れると思いますが、本質を突いた忍者作品が生まれることを心より願っています。

 以上で今回のレビューを終わります。次回は「龍の忍者 NINJA IN THE DRAGON’S DEN」(1982年、監督:ユン・ケイ)をレビューしたいと思います!(院生 郷原記)